ブラックインターン被害を避けるために学生が知っておきたいインターンシップとお金のこと

ブラックインターン被害を避けるために学生が知っておきたいインターンシップとお金のこと

君はタダ働きさせられていないだろうか?

誰であろうと、仕事をすればその対価として金などの報酬をもらうのが当然である。また、その仕事が会社などに所属して行う労働ならば、法律で報酬をもらうことが定められている。

ところが昨今、インターンシップやボランティアと称して、人をタダで働かせようとする人々が少なからず目に入る。

とくにインターンシップにおいては、学生が社会や労働法制に無知な点を利用し、使い勝手の良い労働力として悪用する事業所が問題になることも少なくない。

そこで今回は、インターンシップにおいて賃金を貰うべき内容であるにもかかわらず、賃金をもらえずタダ働きさせられる学生が現れないよう、インターンシップと賃金の関係について少し事例などを見ていこうと思う。

目次





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インターンシップと称して無賃労働をさせるブラックインターンに学生は注意

インターンシップを行う上で、最も知っておいて欲しいのは、「インターンシップだからといって賃金が発生しないなどということは無い」点だ。

以前「復興庁「復興・創生インターン」はブラックインターンなのか?」の記事でも指摘したが、インターンシップにおいても、労働者性が認められるような内容であるならば、賃金を支払う義務が生じる。

当然ながら、その際は労働者としてみなされるのだから、労災などの適用にもなる。インターンシップを行う事業者の中には、この点を誤解している人も少なくない。中には、学生の無知につけこみ悪用しようとする事業者も存在する。

事業所側の誤解によって生じたインターンシップトラブルについて、最近の事例でいえば「インターンシップ学生に不払い労働 農業生産法人に勧告 石巻労基署」が挙げられる。

このケースでは、石巻市の農業生産法人アルコバレーノファームが、インターンシップと称して、東北学院大経済学部の学生2名に対し、資料やWEBサイトの作成、イベントでの商品販売などを無賃で行わせたことが問題となった。結果としては、石巻労基署が勧告を行い、事業所側が賃金の支払いを進める方向で解決に向かっている。

このように表沙汰になるものやそうならないものも含め、インターンシップの賃金の支払いの有無にまつわる問題は少なくないと見られている。中には「やりがい」や「貴重な体験ができる」といったようなことを謳うケースもあるほどだ。

しかし、どれだけ素晴らしい体験ができようとも、それが労働とみなされるような内容ならば、支払うべきものは支払わなければならない。その点を履き違えてはいけないのである。

インターンシップでも賃金が支払われなければならない労働者性の基準は何か

インターンシップだからといって賃金を支払わなくて良いわけではない。では、どのような内容ならば賃金を支払う必要があるのだろうか?

これについては、「復興庁「復興・創生インターン」はブラックインターンなのか?」でも紹介した通り、「インターンシップ受入れにあたって -長野労働局・各労働基準監督署-」が参考になる。ここでは、インターンシップを行った学生に労働者性が認められる内容として以下の内容が記されている。

  • ・見学や体験的な要素が少ない。
  • ・使用者から業務に関わる指揮命令をうけている。
  • ・学生が直接の生産活動に従事し、それによる利益・効果が当該事業所に帰属する。
  • ・学生に対して、実態として何らかの報酬が支払われている。

出典:インターンシップ受入れにあたって -長野労働局・各労働基準監督署-

この目安は、「平成 9・9・18 基発 636 号」「 昭和 57・2・19 基発第 121 号」の内容を踏まえて示されているものである。では、「平成 9・9・18 基発 636 号」「 昭和 57・2・19 基発第 121 号」とは何か?

「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」とさ
れています(旧労働省平成9年9月18日基発第636号)。

出典:インターンシップ活用ガイド活用編 -経済産業省-

まず「平成 9・9・18 基発 636 号」について。この内容から、どのような場合に労働者性が認められるかが読み取ることができるだろう。簡単にまとめると以下の場合に労働者性が認められ得るとしている。

  • 指揮命令を受けており、使用従属関係が認められる
  • 直接生産活動に従事しており、その活動による利益や効果が当該事業場に帰属している。

一方、「 昭和 57・2・19 基発第 121 号」はどういう内容なのか? これは「商船大学及び商船高等学校の実習生の労働者性について」というもので、具体的にどのような場合に労働者性が認められないかを知る手がかりになるものだ。ここでは、具体的に次のような内容について労働者性が認められなかったことが記されている。

  • 大学等の教育課程の一環として、甲種2等機関士等の海技従事者国家試験の受験資格に必要な乗船履歴(一部向上における実習で代替できる)を取得させるために行われていること
  • 実習実施について、大学側から委託事業場に対して所定の教育実習委託費が支払われていること
  • 大学側が工場実習規定等(実習期間や科目、実施体制、履修状況の把握、成績報告、表彰、制裁など)を定め、実習がこれに従って行われていること(但し、具体的な実習内容は、委託事業場に任されていること)
  • 実習が、委託先事業場の従業員で大学側から実習指導を委嘱された指導技師の指導の下で行われていること
  • 現場実習が、一般労働者と明確に区別された場所で行われているか、見学によって行われているが、生産ラインの中で行われている場合であっても軽度の補助的作業に従事するにとどまり、直接生産活動に従事することがないこと
  • まず指導技師によって把握されている実習生の欠勤、遅刻、早退の状況や実習生の履修状況を、工場実習規定などによって定められた所定の手続きによって、最終的に大学側によって把握、管理されていること
  • 実習生に対する制裁が、たとえ実習生の実習規律として委託先事業場の諸規則を準用していたとしても、違反した場合に委託先事業場として制裁を課されないこと
  • 実習手当について、実費補助的なお金か恩給的なお金であること(交通費などについても同様)

つまりここから、あくまで学校教育の一環として行われていると認められる場合、労働者性が認められないことが分かる。逆をいえば、学校教育の一環として行われていないインターンシップにおいて、先に記した以下の2点。

  • 指揮命令を受けており、使用従属関係が認められる
  • 直接生産活動に従事しており、その活動による利益や効果が当該事業場に帰属している。

このような実態が確認された場合、それはインターンシップであったとしても労働者性が認められる可能性が高くなるといえる。そして、そのようなインターンシップで最低賃金以上の賃金が支払われていないとすれば、そのインターンシップは違法である可能性が高くなるといえるのだ。

こういったものについて、以前労働基準監督署に確認したところ、「最終的に個別具体的な内容については、本人の申出がないと対応が難しい」とのことだった。つまり、インターンシップに参加した本人が、おかしいと感じ自ら相談に行かなければ、たとえそれが本来賃金をもらうべき内容であっても、泣き寝入りせざるを得ないことになりかねないということである。

事業所側がそのような違法行為を行わないのが在るべき姿だが、事業所側がコンプライアンス(法令遵守)について怠慢であったり、或いは悪意を持っているケースは決してゼロでない。

だから、本来的には不要な手間かもしれないが、学生側もインターンシップをするのであれば、事前に「インターンシップだからといって賃金が支払われなくて良いなどということはあり得ない」ことを知っておくべきだろう。また、どのような内容について労働者性が認められるのか意識しておくに越したことはない。

学生生活という限りある時間を、コンプライアンスの機能していない事業所に付き合い、無為に過ごすことがあってはならない。また、労働したならば、しっかりと対価を受け取る必要がある。それが社会のルールなのだ。

有償インターンシップという選択肢もある

「インターンシップだからといって賃金が支払われなくて良いわけではない」と分かったとしても、学生が個々で労働者性の有無を判断するのは極めて難しいのは事実である。

手っ取り早い対処方法としては、自分が参加したインターンシップの内容を記録し、終了後に労働基準監督署などに相談する方法が挙げられる。しかし、それこそ手間だという学生は少なくないだろう。

そういった学生については、やはり最初から賃金や報酬を支払うことを明示しているインターンシップを受けるのが得策である。そもそも、今は有償インターンシップがゼロではない。あえて無償インターンシップなどやる必要はないとすらいえる。いっそアルバイトでもした方が良いかもしれない。

無償インターンシップの全てがタダ働きさせる意図があるとは言わない。素晴らしいインターンシップも少なくないは一定の事実である。しかし、せっかく現実の仕事に触れるのであれば、やはり報酬があった方がやりがいや責任を感じ、より濃密な体験ができる学生は多いだろう。

有償インターンシップとしては、たとえばLINE株式会社が1ヶ月40万円のインターンシップを募集したことで話題になった。またヘッドハンティングなど人材ソリューション・アウトソーシング業務を行っているジーニアス株式会社も時給1000円の短時間インターンシップを募集している。LINE株式会社に比べれば報酬が少ないと感じるかもしれないが、様々な業界や企業、仕事について深い知見を得られるのが魅力である。

日本最大級の就活サイト「リクナビ」の掲載企業を調べると、インターシップを募集している企業数が約5,500社。そのうち報酬ありのインターンシップが約250社。なんと報酬ありのインターンシップは全体の5%ほど。

出典:インターンシップの報酬・給料は平均いくら貰える? -ゼロワンマガジン-

これまで無償インターンシップが主流であり、その流れ自体はまだ大きく転換したとはいえない。しかし、ここに書かれているように有償インターンシップも決して少なくないのである。むしろ5%もあるのかと思う人も少なくないかもしれない。

インターンシップは、数多くの職場をその目で確認し、就活などに大いに役立てられる貴重な機会だ。しかし悲しいかな、世の中にはそういった機会を求める学生を、「やりがい」や「貴重な体験ができる」といった甘言で唆し、安い労働力として使おうと考える事業所も多いのが実態である。

学生たちの貴重な時間が大人の都合で無駄に消費させられない健全なインターンシップ環境が整うこと、学生たちがより高い価値のあるインターンシップが受けられる健全な社会になることを願ってやまない。ブラックインターンなど、あってはならないのである。


 

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復興庁「復興・創生インターン」はブラックインターンなのか?


裁量労働制は「定額働かせ放題」なのか? 労働基準監督署の見解は

裁量労働制は「定額働かせ放題」なのか? 労働基準監督署の見解はどうなのか

「定額働かせ放題」

果たしてそのようなことが現実に存在するのだろうか? そう疑問に感じた経験がある人は少なくないだろう。まして、その言葉が向けられるのは法制度についてである。

憲法において奴隷的拘束や意に反した苦役に服されないことが禁じられている我が国において、果たしてそのような法制度が実在し得るのだろうか。

「定額働かせ放題」として、多くの人々から指摘されている高度プロフェッショナル制度(案)や裁量労働制。

今回は、その内裁量労働制について、「定額働かせ放題」などという事実が存在し得るのか、労働法制について監督を行っている労働基準監督署に確認した。

労働法制について余り知る機会のなかった人、裁量労働制に疑義のある人、「定額働かせ放題」が実在するのか疑問を感じている人など、良ければぜひ一度確認しておいて欲しい。

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裁量労働制とはどのような制度か

そもそも裁量労働制とはどのような制度なのだろうか。この点について分からない人もいるかもしれない。そこで、まずは簡単な説明にはなるが、裁量労働制について軽く説明しておきたい。

一般的にみなし労働時間制や裁量労働制という言葉で表現されるが、厳密にいえば裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の二種類が存在する。

この二つは、対象者や運用においても若干の違いがあるので、混同しない方が良いだろう。ニュースや新聞など各種メディアにおいて、労働問題として何かしらの問題が発生した場合は、この二種類を分けて書いていないことも珍しくない。

場合によっては、どちらの制度が適用されているかによって全く捉え方が変わってしまうこともないわけではない。そのため、これらについて分けて知っておくに越したことはないだろう。

専門業務型裁量労働制とは何か

法で定められた特定の業務について、業務を完了させるための手段(やり方)や時間配分などを労働者側の裁量に多く委ねる制度である。対象業務や詳しい内容については以下を参照して頂きたい。

専門業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

対象業務としては19業務が指定されている。当然ながら、ここに記されている業務以外の業務について適用することはできない。もし記載されていないような業務で、この裁量労働制が適用されているとすれば、それは違法である。

この制度を導入するにあたっては、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要がある。また、そのために使用者と過半数労働組合あるいは過半数代表者の間で労使協定を結ばなければならない。日頃、新聞など各種メディアにおいて、裁量労働制の運用があたかも使用者(経営者など)にとって都合良くできる制度であるかのように語られるが、実際には厳密な運用が求められる。

 (1)  制度の対象とする業務
(2)  対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
(3)  労働時間としてみなす時間
(4)  対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
(5)  対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
(6)  協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
(7)  (4)及び(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

出典:専門業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

具体的にいえば、上記のような内容を事細かに定め、その範囲内でしか裁量労働制は適用できない。加えて、健康・福祉確保措置や苦情処理措置も講じなくてはならない。

健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするためには、対象労働者の勤務状況を把握することが必要です。使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法としては、対象労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等を明らかにし得る出退勤時刻又は入退室時刻の記録等によるものであることが望ましいことに留意することが必要です。

出典:専門業務型裁量労働制(健康・福祉確保措置)-厚生労働省労働基準局監督課

誤解されがちだが、裁量労働制を適用したからといって、使用者は労働者が働いている時間を全く管理・把握しなくて良いというわけではない。また、休日や休憩時間の確保、健康状態の把握や配慮なども必要になる。

企画業務型裁量労働制とは何か

本社など特定の事業場において、企画・立案・調査・分析といった限られた業務について、それを行うに適切な能力を持った人物を対象としてみなし労働時間制を適用する制度。企業の事業活動の中枢を担うホワイトカラーが対象となる裁量労働制である。一方で、ホワイトカラー全般が対象とならないよう、専門業務型裁量労働制よりも厳格な運用が必要となる。

※参考:企画業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

たとえば専門業務型裁量労働制は、過半数労働組合あるいは過半数代表者との間で労使協定を結ぶことで適用できる。一方、企画業務型裁量労働制を適用するにあたっては、使用者を代表する委員と労働者を代表する委員とによって作られる労使委員会(但し、構成員の半数以上は労働者を代表する委員である必要性がある)において、各必要事項に対して5分の4以上の決議を得た届出の提示が必要となる。

その上、対象となる労働者個人の同意も必要であるのに加え、裁量労働制の実施にあたっては、6ヶ月ごとに運用状況について報告する義務が発生する。つまり、裁量労働制を実施するための手続きが専門業務型裁量労働制以上に厳格であり、運用にあたっても厳格な管理が必要となるのだ。

健康・福祉確保措置などについても厳格な運用が求められる。そのため、企画業務型裁量労働制を実施するにあたっては、あらかじめ労働時間の把握についてや健康状態の把握・管理・措置などについても適切な内容を定めておく必要がある。

※参考: 労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針〔平成11年12月27日労働省告示第149号〕

※参考:「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署

※参考:裁量労働制とは何ですか。-独立行政法人労働政策研究・研修機構

裁量労働制の問題点「時間外割増賃金(残業代)が支給されない」は真実なのか

裁量労働制の問題点として、近年とくに高らかに言われているのは「定額働かせ放題」というものだろう。つまり、労働時間がみなしになってしまうため、いくら働いたとしても給料が一定額になってしまうという点だ。

見ようによっては、そもそも会社員のほとんどは「定額働かせ放題」と言えなくもない。何せ、いくら働いたところで月給制なら月給として定められた金額しかもらえないのである。しかし、本件についてはそういう話ではない。

裁量労働制における「定額働かせ放題」というのは、事実上何時間働いたところで、時間外割増賃金などの金がもらえないという話だ。決して会社員を皮肉ったブラックジョークではない。

通常、使用者は労働者を1日8時間・週40時間を超えて働かせてはいけない(労働基準法32条1項)。これに対して、労使間でいわゆる36協定を締結することで、週15時間・1ヶ月45時間などを上限として(一部業務は除く)、時間外労働を行えるようにできている(労働基準法36条時間外労働の限度に関する基準)。加えて、36協定に特別条項を設けることで、1ヶ月45時間を超えた時間外労働を一定条件の下で行わせることが可能になる。

この延長した時間に対しては、割増賃金の支払いが必要となり、通常の労働時間あるいは労働日の賃金の計算額について25%~50%分を割増した賃金を支払わなければならない(ただし、60時間を超える時間については50%以上の割増賃金を支払う必要がある。※労働基準法37条

ところが、裁量労働制を適用された労働者は、予め決められた時間を働いたことになるため、いくら働いてもその時間を時間外労働として認められないという問題が指摘されているわけである。そして、その言に従うのであれば、使用者は一定の金額さえ支払えば、何時間でも労働者を働かせることができるという話だ。

これが事実であるならば、確かに裁量労働制は問題の多い制度であり、ともすれば憲法18条「奴隷的拘束及び苦役からの自由」に悖る内容といっても過言ではない悪法制度といえるかもしれない。果たしてそれは事実なのだろうか?

裁量労働制には時間外割増賃金もあれば深夜割増・休日割増も存在する

裁量労働制が「定額働かせ放題」を強いる制度なのかどうかは後述するとして、まず事実として知っておいて欲しいのは、裁量労働制には時間外割増賃金や深夜割増賃金、休日割増賃金も発生するという事実である(専門業務型裁量労働制の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署企画業務型裁量労働制の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署)。

そもそも適用される法律が異なる深夜割増・休日割増の発生は広く知られているところだろう。もし裁量労働制が適用された働き方をして、深夜割増や休日割増を貰えていないとすれば、それは直ちに違法である。『労働時間がみなされるのに深夜割増や休日割増などどのように判断するのか』と感じるかもしれない。

これについては、裁量労働制を実施するにあたり、労使協定において『深夜や休日に労働する場合は、事前に所属長に許可を取ること』などのように規定し、実際に当該時間帯において働いた時間に応じた割増賃金の支払いが行われることとなる。少なくとも、割増賃金の支払いが発生しないということはありえない。

一方、時間外労働に対する割増賃金の支払いはどうだろうか。これも先に言ったように発生しないということはありえない。昨今、裁量労働制について『残業代が発生しない』と吹聴する有識者などがメディアを賑わすことがあるが、それについては明白な虚偽である。フェイクニュースといっても過言ではない。

いっそ、そのような誤った風説を流布する有識者の存在が、裁量労働制について誤った認識を与えているとすらいえる。もし裁量労働制において『時間外労働に対する割増賃金』が発生しないと思っているのであれば、その認識は改めた方が良いだろう。決して騙されてはいけない。

ただし、この時間外労働に対する認識だが、裁量労働制においては通常の考え方とは若干違いが生じる。どのような違いが生じるかといえば、通常の労働であれば8時間を超えて働いた時間については1分であっても割増賃金の支払い義務が生じるが、裁量労働制においてはそうではないという点である。

それならば時間外割増賃金の支払いは発生しないのではないかと混乱するかもしれない。やはり裁量労働制では残業代が出ないのではないかと思うかもしれない。だが、そうではない。裁量労働制における時間外割増賃金は、あらかじめ定められるみなし労働時間において、8時間を超える時間に対して支払いが生じるのである。

つまり、裁量労働制を実施するにあたり、『みなし労働時間は9時間とする』といった場合について、1日あたり1時間分の割増賃金の支払いが生じるのである。非常に大雑把な図にはなるが、イメージとしは以下の画像のような状況をイメージして欲しい。

裁量労働制の時間外割増賃金(残業代)算出イメージ

※あくまで大雑把なイメージです。個別具体的な内容については、労働基準監督署などにお問い合わせ下さい

このように、予め定められた時間数に限定されるものの、時間外割増賃金は裁量労働制においても発生する。全く発生しないということはありえないのである。そうはいっても、事前に定められた金額しか支払われないのであれば、「定額働かせ放題」というのは事実だと思うかもしれない。その点についてはどうなのだろうか?

裁量労働制の問題点「定額働かせ放題」は真実なのか

裁量労働制において時間外割増賃金(残業代)が支払われないというのが誤りだというのは分かっただろう。しかし、それでも「定額働かせ放題」への疑念は晴れないかもしれない。実際問題、先ほど伝えたように予め定められた時間分の賃金しか支払われないのならば、「定額働かせ放題」と考えられてもおかしくはない。

今回、この点に対して労働基準監督署の監督官に質問を行っている。そこで得た回答を踏まえて、先に結論を述べるならば『定額働かせ放題は起こり得るが、その時点でそれは裁量労働制の範疇から外れる』というものである。

労働基準監督署の監督官によれば、そもそも裁量労働制を導入するにあたり、専門業務型裁量労働制にしても企画業務型裁量労働制にしても、労使間での合意が必要である以上、みなし労働時間として定められた時間で終わらないような業務や業務量が課せられる状態は、明らかにおかしいとのことである。

裁量労働制とは、前述したように業務の遂行方法や時間配分などを労働者側に委ねる制度。明らかにみなし労働時間内で終わらないような業務量が恒常的に発生する状況は、時間配分に裁量があるとは認められず、よってそのような状態は裁量労働制として認められないという話である。

もちろん何らかのトラブルによって、事前に予測し得なかった状況になり、そういった状態になることは想像される。その場合は、労使間で改めて裁量労働制の要件を議論し直す必要があるとのことである。そして、このときそれが認められないような場合は、直ちに労働基準監督署などに相談すべきだという見解であった。

つまり「定額働かせ放題」のような、労働者に支払う賃金を抑制するためだけに裁量労働制が実施されているに等しい状況は、そもそも裁量労働制として認められないというわけである。

またそれとは別に、裁量労働制として認められない内容としては、様々な争点があるものの「エーディーディー事件」で指摘されたような、裁量労働制であるにもかかわらず、具体的な指示を受け、ノルマを課せられるような場合も、裁量労働制とは認められないという見解を得ている。

裁量労働制は、あくまで労働者個人の裁量によってのみ業務を行えることがほぼ完全に担保されなければ、その労働時間についてみなし労働時間とは認められないというわけだ。たとえば、派遣労働であったとしても、それは同様と話されている。つまり、派遣先で事細かにノルマや納期を指示され、業務の遂行方法なども拘束されるのであれば、裁量労働制ではないとのことである(派遣労働の場合は、派遣元・派遣先のいずれからも具体的な拘束的指示を受けない形が求められる)。

このように、本来裁量労働制は「定額働かせ放題」となるような、使用者にとって都合の良い制度として機能できない制度となっている。職種の縛り、命令の縛り、健康・福祉確保措置の縛り、何かあれば見直しを求められる縛りなど何重にも制約がついている。

仮にそれらの制約から外れたような都合の良い運用がなされているのであれば、それはすなわち違法状態となっている可能性が高いと労働基準監督署の監督官は告げていた。

そのため、もしも明らかに異常な状態(たとえば毎日のようにみなし労働時間数よりも多くの労働時間が発生している、ノルマの提示や業務遂行についての指示が繰り返されるなど)が発生しているのであれば、労使間で再度協定の見直しを求める必要があるとしている。そして、それが認められないようであれば、直ちに労働基準監督署へ相談して欲しいとのことである。

昨今、新聞などの各種メディアによる報道において、裁量労働制に纏わる話は、あたかも裁量労働制が問題にまみれた制度であるかのように伝えるものが多い。しかしながら、それは制度の問題というよりは、問題ある運用を行っている使用者並びに企業の問題であることが多い。

確かに裁量労働制にも見直すべき点は少なくないかもしれない。しかし、問題の多くはそれを使う側の問題であるという視点は持つべきであるし、制度について議論する場合は、まず制度についての客観的な事実を踏まえる必要があるだろう。

感情的に騒ぐのは個人の自由だが、誤った情報を元に問題を肥大化させるのは、それこそが多くの問題を孕んでいる行為ではなかろうか。裁量労働制に纏わるヒステリックなまでの批判については、とくにそれが顕著であるように感じられてならない。

尚、最後に補足しておくが、私個人は裁量労働制について全面的に賛成しているわけではない。見直すべき点はまだまだあり、たとえば対象業務を拡大するといった話は、現状では論外だと考える立場である。






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