「何者かになろう」と道に迷う人間を想う

「何者かになろう」と道に迷う人間を想う

このエントリーをはてなブックマークに追加
最初に伝えておくが、この記事は考察や何か論じるものではない。

 

貴方は『ジェントル・クリミナル』というキャラクターを知っているだろうか?

 

『総人口の約8割が超常能力”個性”を持つ世界』

そこで人々の生活を守るべく活躍するヒーローとヒーローを志す少年少女たちを描いた作品。

僕のヒーロアカデミア

集英社週刊少年ジャンプで連載する言わずと知れた人気連載漫画だ。

通称「ヒロアカ」と呼ばれる本作は、2019年10月から2020年3月までアニメの第三期を放映している。

そしてその最後、主人公である緑谷出久(みどりやいずく※通称デク)の前に立ちはだかる敵が、冒頭で名前を出したジェントル・クリミナルである。






※広告です


ジェントル・クリミナルは決して物語の中だけの存在ではない


彼がどんな人物か紹介しよう。

「現代の義賊」「義賊の紳士」を自称し、曰く紳士的でないものに制裁を与えるためにパートナーのラブラバと共に、ネットの動画サイトに自身の制裁行為を録画した動画を投稿し続ける迷惑な男。

出展:アニヲタWiki(仮)

簡単に言えば小物である。

物語の上でも、酷い言い方をすれば「何故登場したのかイマイチ分からない」存在でもある。

前後の物語を考えても、ジェントル・クリミナルが登場する物語においても、冷静に考えて登場する必然性があまり感じられない人物だ。

確かにデクの心の成長に寄与した面はある。

もしかすると今後何かしら伏線の役割をする可能性もあるだろう。

だが、現時点では登場しなければならなかった人物なのか甚だ疑問がある存在だと思う。

 

ーー何故そのような人物の名前を出したのか?

 

これには理由がある。

物語においてはイマイチ存在理由が不透明であり、存在感が薄いジェントル・クリミナルだが、こと私たちが生活する実社会と彼を重ねたとき、彼の存在はとある示唆を与えてくれるのだ。

先程ジェントル・クリミナルがどういう人物か紹介した。

実はまだ紹介できていない内容がある。

それは「何故ジェントル・クリミナルは義賊を語るヴィラン(悪者)になったのか?」だ。

今でこそヴィラン扱いされているジェントルだが、かつては「歴史に名を残す偉大な男になる」と大真面目に語りヒーローを目指す高校生だった。
だがその道を志すにあたり彼には致命的な欠点があった。
担任をして”普通”と評する学校で赤点を取り続け、仮免試験にも4度不合格、それ以外にも何かやらかしてたのか高校留年を繰り返し、
あまりの不出来っぷりに三者面談で退学を勧められ母親を泣かすどこにでもいそうでいない落ちこぼれ生徒だったのだ。
(中略)
その後、ジェントルは偶然ビルから清掃員が墜落しそうになった現場に遭遇し、救助を試みるも、
自身の個性と視野の狭さのせいで同じく救助に向かおうとしていたプロヒーローを妨害してしまうことに。
結局、清掃員は助けが間に合わず重傷を負ってしまう。
これが理由でジェントルは高校を自主退学、家族は世間からの誹謗中傷を受け実家からも追い出されてしまう。
それから22歳までは1人貧しくフリーター生活を送っていたが、ある日かつての同級生でプロとして活躍中の竹下と数年越しに再会し、
彼に自分を忘れ去られていたために激しく焦燥し始める。
出展:アニヲタWiki(仮)

ここに書いてある通り、元々ジェントル・クリミナルはヒーローを志す少年だった。

それも普通のヒーローではない。

世の中に名を残す偉大なヒーローである。

だが、彼は偉大なヒーローになるにはあまりに能力が足りていない。

当然誰一人彼を評価せず、期待すらしなかった。

彼だけが彼自身の可能性を信じていた。

しかし引用した部分に書かれているように、彼は大きな失敗をすることになる。

純粋な善意で人助けをしようとし失敗し、あろうことか犯罪者になってしまったのだ。

そして彼が夢描いていたヒーローへの道は閉ざされ、その後凡人以下の生活を送ることになった。

そんな最中、彼は自分がなるはずだったヒーローになった同級生と出会い、自分のことを覚えてさえもらえていないことを知る。

 

ーー想像してみて欲しい。

 

世の中に名を残すはずだった彼が、同級生にすら名前を覚えてもらっていなかったのだ。

それも彼はヒーローにすらなれていない。

かつて描いた未来と自分が立っている現実とのギャップ。

かつて共に学んでいた同輩に大きく水をあけられ、自分の存在を忘れ去られてすらいる惨めさ。

そういった多くの暗い感情が、一気に彼に押し寄せたのである。

彼がどれだけ絶望し、激しい焦燥に駆られたか。

恐らく貴方にも想像できるだろう。

 

こうしてジェントル・クリミナルは義賊と称するヴィラン(悪者)になったのである。

すべて、世の中に自分の名前を刻むため。

動画を通じて自分の悪行を全世界に発信し、自分という存在を世界に刻もうと、彼は犯罪を繰り返したのだ。

 

漫画を通じて見るジェントル・クリミナルは、酷く幼稚で、非常に傲慢な、いかにも小物な悪党である。

実際に漫画やアニメで彼を見て、彼の主張を聞いても「コイツは何を言っているのだ?」くらいにしか思わない人がほとんどだろう。

イライラする人もいるかもしれない。

しかしほんの少しだけ冷静になり、彼の姿に私たちが生活する現実世界を重ねると若干違った見え方がしてならない。

 

つまりジェントル・クリミナルとは、受験や就職などたった一度の失敗だけで夢描いた何かになれず、憧れた生活を手にすることもできず、知人や友人にも大きな距離を開けられ、ただただ惨めに感じる日々を過ごす誰かである。

 

ーーそんな彼が一発逆転を想い、犯罪に手を染める。

 

そう考えると、ジェントル・クリミナルという小悪党が、途端に強烈な存在感を放って感じられないだろうか?

とくに昨今の世の中は、犯罪でなくても「何者かになろう」と普通の人間がTwitterやYouTubeといったものを使って炎上を創出する世界である。

少し前にはバイトテロと呼ばれる事案も起きている。

つまり、ジェントル・クリミナルとは決して架空の小悪党ではない。

現実に存在するのである。


ヒロアカのジェントル・クリミナルは救われたが現実世界の彼は救われていない


最終的にジェントル・クリミナルは、自らを支えてきたラブラバのおかげで正しい道を見つけることになる。

だがこれは人によって紡がれた物語の中だから訪れた結果に過ぎない。

私たちが生活する現実世界のジェントル・クリミナルは、その多くが自分が進むべき正しい道を見つけられていないのではなかろうか?

奇しくも今の世の中は「何者かになる」ことを直接的・間接的に求められる時代であり、誰もが「何者かになろう」と日々焦燥に駆られている。

物語の中のジェントル・クリミナルはデクとラブラバに救われた。

では、現実世界のジェントル・クリミナルはどうだろうか?

救いのないジェントル・クリミナルによる、現実世界の破壊が起こらない事を願いたい。

このエントリーをはてなブックマークに追加





※広告です


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です