障害者雇用水増し発覚後不足者数ランキングと障害者雇用に関する制度の話(行政機関関係)

障害者雇用水増しランキングと障害者雇用に関する制度の話(行政機関関係)

2018年8月、各府省庁において、障害者雇用の水増しが行われていたことが判明した。

その後この問題は地方公共団体へも波及し、数多くの団体・機関において同様の問題があることが明るみになっている。

言うに及ばず、これは違法行為であり許されざる行いである。

ところで、今回の事案は一体どのような違法行為だったのだろうか? 又、どの団体・機関においてより大規模な違法行為が行われたのだろうか? この機会に改めて確認しようと考える。

目次





障害者雇用義務はどのような法律・制度で定められているか? 障害者雇用率とは何か


民間企業を含め、一定規模の事業体には一定数の障害者を雇用する義務が課されている。それに伴い、民間企業に限りその罰則として納付金と呼ばれる罰金が設定されている。

今回、府省庁や地方公共団体において違法行為が発覚したが、彼らはこの罰金を支払う必要はない。それどころか何らかの罰が与えられる気配すら見られないのが現実である。

この度の障害者雇用の水増しが行われた背景には、このような罰則無き法制度という背景が要因の一つになっていたのではないか? そういった声も囁かれるが、新たに罰則を設定しようという動きは未だ見られない。

果たしてその状況下で今後行政による障害者雇用が適切に行われるかは甚だ疑問という外ないが、立法府が動かない以上どうしようもないというのが現状である。

障害者雇用制度とはどのような制度か

さて、この障害者雇用についてだが、実際の所どのような法律で定められているのかを改めて紹介しておこう。

第一条 この法律は、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。
出典:障害者の雇用の促進等に関する法律-e-GOV

障害者の雇用について、その基本となる決まりを定めているのは「障害者の雇用の促進等に関する法律」、通称障害者雇用促進法である。

今回この法律について事細かに説明することはしないが、大まかに言えば、雇用分野における障害者差別の禁止や障害者への配慮、障害者を支援する機関等についての諸制度が整備された法律である。

では、今回問題となったのはこの法律のどういった内容についてか? それを見ていこう。

(対象障害者の雇用に関する事業主の責務)
第三十七条 全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない。

(雇用に関する国及び地方公共団体の義務)
第三十八条 国及び地方公共団体の任命権者(委任を受けて任命権を行う者を除く。以下同じ。)は、職員(当該機関(当該任命権者の委任を受けて任命権を行う者に係る機関を含む。以下同じ。)に常時勤務する職員であつて、警察官、自衛官その他の政令で定める職員以外のものに限る。以下同じ。)の採用について、当該機関に勤務する対象障害者である職員の数が、当該機関の職員の総数に、第四十三条第二項に規定する障害者雇用率を下回らない率であつて政令で定めるものを乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)未満である場合には、対象障害者である職員の数がその率を乗じて得た数以上となるようにするため、政令で定めるところにより、対象障害者の採用に関する計画を作成しなければならない。
出典:障害者の雇用の促進等に関する法律-e-GOV
※各条2項以降略

今回問題となっているのは、主にこの障害者雇用促進法第37条、第38条によって定められている、障害者の雇用義務についてである(厳密に言えば行政事案であるため後者)。

では、この雇用義務とは何か?

簡単に説明すれば、先述した様に「一定規模の事業体においては一定数の障害者を雇用しなければいけない」という決まりである。

実際にどの程度雇用しなければならないかは、雇用率という一定の算定式によって算出される割合が基準になっており、2018年4月1日から以下のように設定されている。

  • 民間企業:2.2%
  • 国・地方公共団体等:2.5%
  • 都道府県等の教育委員会:2.4%

このため、例えば民間企業では従業員数45.5人に1人、国・地方公共団体等では40人に1人程度を雇用しなければならない。

ただし、この雇用率の算定にあたっては、障害者の障害等級によって1人を2人分として計算するといった特例や特定の業種に対して除外率という緩和策も提供されており、この雇用例はあくまで目安程度のものである点に注意が必要だ。又、特例子会社制度など、雇用率を維持、遵守するために活用できる制度もある。

詳しくは以下の資料を参照する他、労働局等に問い合わせて欲しい。

※雇用率算定における、障害の程度によるカウント方法については、厚生労働省が、何故か平成30年のリーフレットにおいてその項目を省略しているため、平成22年のものをリンクとして掲載する(身体障害者・知的障害者分のみを参照)。

※発達障害者のカウントやどのような(程度)障害を抱えた人がどれだけのカウントになるかの詳細は労働局などに確認してください。

障害者雇用制度の納付金(罰金)・報奨金制度の内容とその収支


障害者雇用には罰金や報奨金が用意されている。

障害者の雇用に伴う事業主の経済的負担の調整を図るとともに、全体としての障害者の雇用水準を引き上げることを目的に、雇用率未達成企業(常用労働者100人超)から納付金を徴収し、雇用率達成企業に対して調整金、報奨金を支給するとともに、障害者の雇用の促進等を図るための各種の助成金を支給している。
出典:障害者雇用納付金制度の概要-厚生労働省

これは常時雇用する従業員数が100人以上の企業に対して課されているもので、先述したように府省庁や地方公共団体には課されていない。

障害者雇用制度における納付金・報奨金はどのようなものか

納付金は罰金の性格を持ったもので、従業員数が100-200人の企業に対して障害者雇用者数の不足人数1人分につき4万円(2020年まで)、201人以上の企業で障害者雇用者数の不足人数1人分につき5万円の納付が命じられる。

一方、障害者雇用に積極的な企業に対しては、報奨金が与えられる。例えば従業員数が100人以下の企業で、全従業員数の6%以上、或いは6人以上の雇用で超過する雇用者数1人分につき2万1千円が支給されるのだ。

又、雇用率を達成している企業についても、必要な雇用障害者数を超過した分の障害者1人分につき2万7千円が支給される。

この他、雇用せずとも例えば障害者や障害者就労支援施設等に対して仕事を発注した場合に支給される特例調整金又は特例報奨金もある。

これら企業に支給される調整金や報奨金の原資として、納付金が使われており、障害者雇用を促進させることを目的にしている一方で、法令違反を犯し納付金を納める企業が存在しないと制度が維持できない歪な構造問題への指摘もある。

府省庁等の障害者雇用水増し分について仮に納付金が求められた場合の金額は4億円超

尚、今回法令違反が各府省庁及び地方公共団体等で発覚したが、何度も言うようにこれらの団体には納付金を納める義務が設定されていない。調整金や報奨金についても同様である。

今回仮に納付金の納付が求められた場合、行政機関において3,396.5人の不足、地方公共団体等において4,667.5人の不足であるため、仮に1人不足につき5万円の納付が求められるとすれば、4億3千2百万円の納付金が徴収されたことになる。

2017年の資料が見つからないため、2016年度の障害者雇用に係る納付金・報奨金の収支報告を参考にすると、納付金の総額312億円であるため、72分の1(1.3%程度)に過ぎないといえば過ぎない。しかし、決して少ない金額でないことは明白である。

※参照:障害者雇用の現状等-厚生労働省

とはいえ、現状の障害者雇用の進捗具合は民間でも決して素晴らしいといえる程では無い。厚生労働省による2017年度の障害者雇用状況の集計によれば、障害者雇用者数・実雇用率共に過去最高ではあるものの、法定雇用率を達せしている企業は50%程度とのことである。つまり対象企業の内2分の1の企業は障害者雇用を必要程度行っておらず、違法状態ということである。

今年度からは法定雇用率が上昇したため、この数字が悪くなる可能性もないといえない。

だからといって各府省庁や地方公共団体等の行政が障害者雇用促進法を守らないことが許されるものではないが、決して民間が十分な程障害者雇用を実施できているわけではないというのは留意する必要がある。

一方で、そもそも障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度は、先述したように違反する企業が存在しなければ、維持するのが難しい制度でもある。

あくまで私見を述べれば、そもそも障害者雇用率制度そのものが欺瞞に満ちた、見直すべき制度だと言わざるを得ない。

障害者雇用者数不足数上位ランキング(府省庁・都道府県・その他都道府県機関・教育委員会・独立行政法人・大学)


さて、2018年10月22日に、厚生労働省によって地方公共団体等及び独立行政法人による障害者雇用の状況が改めて発表された。

2018年9月21日に発表された各府省庁における障害者雇用の状況報告と合わせて、これで水増しを受けた数字でない数字が発表されたことになる。

言ってしまえば、過去に行われたそれらの団体における障害者雇用者数は、丁稚挙げられた誤った情報でしかなかったわけだ。

今回報告された数字が本当に正しいのかは議論があるだろうが、それを元に、現状違法状態が酷い上位の組織について紹介しよう。

尚、府省庁以外の団体については、誤差(過不足)数について省略している。

※2018年10月22日発表時点のデータである

※参照:国の行政機関における平成 29 年6月1日現在の障害者の任免状況の 再点検結果について-厚生労働省

※参照:都道府県の機関、市町村の機関、都道府県等の教育委員会及び 独立行政法人等における平成 29 年6月1日現在の障害者の任免 状況等の再点検結果について

障害者雇用不足数上位:国の行政機関

名称 実雇用率(人) 不足数(人)
1 国税庁 0.67 946人
2 国土交通省 0.70 659.5人
3 法務省 0.80 493.5人
4 防衛省 1.01 255.0人
5 財務省 0.78 183.5人

尚、実雇用率が低い順で見ると、個人情報保護委員会・観光庁が0.00%で最も不足しており、消費者庁(0.12%)、内閣官房(0.31%)、公安調査庁(0.38)と続く。

不足者数で見ると上記5省庁が目立つが、上記5省庁よりも割合として雇用していない省庁は少なくない。

 

障害者不足誤差数上位:国の行政機関

名称 実雇用率(人) 不足数(人)
1 国税庁 0.67 946人
2 国土交通省 0.70 659.5人
3 法務省 0.80 493.5人
4 防衛省 1.01 255.0人
5 財務省 0.78 183.5人

驚くことに、障害者雇用率を達成している府省庁及び個人情報保護委員会を除き、それ以外の全ての府省庁が雇用率を達成水準に水増ししていたため、不足者数の誤差順位も全く同一になる。

つまり、国税庁は946人分について雇用していたことにしたといえる。雇用してもいない946人分を偽って報告していたのだから、悪質と言うよりない。これが会計ならば紛れもない粉飾決算だろう。

 

障害者雇用不足数上位:都道府県

名称 不足数(人) 実雇用障害者
増減数(人)
1 山形県 64人 -76人
2 愛媛県 54人 -54人
3 石川県 46人 -38人
4 島根県 32.5人 -37.5人
5 福島県 31人 -39人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位は、山形県(-76人)、愛媛県(-54人)、福島県(-39人)、石川県(-38人)、島根県(-37.5人)となる。

それぞれの都道府県の事情もあるだろうが、算定対象の誤りにしろ水増しにしろ、担当職員の管理能力に対する疑義は拭えない。

今後は障害者雇用以外の点についても、各種法令の理解不足・認識齟齬や恣意的な水増し・捏造等が存在していないか、あらゆる点で監視が強化されることになるだろう。

 

障害者雇用不足数上位:その他都道府県機関

名称 不足数(人) 実雇用障害者増減数(人)
1 沖縄県病院事業局 37人 -17人
2 大阪府警察本部 28.5人 -30人
3 兵庫県病院局 22.5人 +7.5人
4 愛媛県公営企業管理局 18人 -9人
5 神奈川県警察本部 17.5人 -20人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位は、大阪府警察本部(-30人)、神奈川県警察本部(-20人)、沖縄県病院事業局(-17人)、愛媛県公営企業管理局(-9人)、島根県病院局・静岡県警察本部(-8人)となる。

比較的警察本部と病院局が目立つ。兵庫県病院局は元々算定対象にしていた人数よりも障害者を多く雇用していたことが分かるが、それでも大分不足していたようである。

 

障害者雇用不足数上位:教育委員会

名称 不足増加数(人) 実雇用障害者
増減数(人)
1 愛知県 325人 -392.5人
2 兵庫県 185.5人 -114人
3 埼玉県 168人 -171人
4 広島県 122人 -99.5人
5 神奈川県 121.5人 -141.5人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位は、愛知県(-392.5人)、埼玉県(-171人)、神奈川県(-141人)、群馬県(-123.5人)、千葉県(-117.5人)となる。

実際に雇用していた障害者が算定していた雇用者数よりも少なかった順位について見れば、関東圏が上位になるようだ。ところで、愛知県教育委員会の不足者数は府省庁と比較しても上位に入る(4位の防衛省より上)数であり、規模を鑑みれば驚愕に値する。

愛知県労働局によれば、2017年6月1日時点で愛知県内で雇用されている障害者雇用者数は3万人程度とのことである。それを元に考えれば愛知県教育委員会は新たにその1%以上にあたる障害者を雇用する必要に迫られるというのが分かる。

愛知県労働局の報告を踏まえれば、2016年から2017年にかけて増加した障害者雇用者数は1,091.5人。その30%程度にあたる人数の障害者を新規に雇用しなければならない状況である。

参照:愛知県の障害者雇用状況(平成 29 年 6 月 1 日現在)-愛知労働局

 

障害者雇用不足数上位:独立行政法人(大学を除く)

名称 不足数(人) 実雇用障害者増減数(人)
1 国際協力機構 18人 +3人
2 科学技術振興機構 8人 +5人
3 水産研究・教育機構 7.5人 0人
4 国立国際医療研究センター 6人 0人
5 量子科学技術研究開発機構 3.5人 0人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位についてはそれ程差異が見られないため省略。

 

障害者雇用不足数上位:大学(※私立は含まれない)

名称 不足数(人) 実雇用障害者増減数(人)
1 大分大学 15人 0人
2 北海道大学 11人 0人
3 群馬大学 10人 -6人
4 広島大学 9人 +8人
5 東京工業大学 8人 -6.5人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位についてはそれ程差異が見られないため省略。


  

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「AIスカウト」は合法・違法どちらなのか? 厚労省に職業安定法上の見解を訊いた

「AIスカウト」は合法・違法どちらなのか? 厚労省に職業安定法上の見解を訊いた

「求人を探して、履歴書を作成し、面接を受けるのが面倒臭い」

 

就職活動や転職活動を経験したことのある人ならば恐らく誰もが一度は思ったことがある不満だろう。

 

「会社の方からアプローチしてもらい、そこから働きたい場所を選べるなら良いのに」

 

このような怠惰な発想をしたことのある人も少なくないはずだ。

そういった中、2018年初頭にNHKが報じたことで話題になったのが「AIスカウト」である。

 

しかし、このとき話題になったAIスカウトの内容に対して、違法性があるのではないかと話題になったことも記憶に新しい。

私もその一人である。

 

ただし、私が違法性を覚えたのは、多くの人々によって疑義が指摘された点とは異なる。

広く疑義が寄せられたのは、個人情報の取扱についてだった。

私が疑義を抱いたのは職業安定法上の取扱である。

 

今回は、一時期話題になった「AIスカウト」について、職業安定法上問題はないのか、厚生労働省職業安定局需給調整事業課に確認した内容を伝えたいと思う。

目次





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合法か違法か物議を醸したAIスカウトとは何か?

 

一時期話題になった「AIスカウト」について、その後話題になることがなかったこともあり、そもそも一体どういうものなのか分からないという人も多いかもしれない。

 

話題になったのは、株式会社scoutyが提供するサービスで、「日本初のAIヘッドハンティングサービス」と謳われるものである。

 

学習能力に優れた人工知能が、インターネット上のオープンデータから情報を取得して、
エンジニアの能力を自動分析し、最適な企業とマッチング。

出典:株式会社scouty

 

つまり、求職者は求人サイトに登録することなしに企業側からオファーを受けられるというサービスである。

概要としては、株式会社scoutyが運用するAIが、インターネット上にある情報(個人のブログやSNS、技術者情報共有サービスなど)を収集し、求職者のデータベースを作成。

その求職者の情報(匿名情報としている)を元に、企業側はオファーを送りたい人物を選び、株式会社scoutyのサポートを受けながら作成したオファーを送付。

求職者側と直接やり取りを行うというサービスだ。

 

2018年5月5日時点で、以下の上場企業を含む、ベンチャー企業などが利用しているとのこと。

  • 楽天
  • DeNA
  • Cyber Agent
  • freee
  • News Picks
  • Gunosy
  • Retty
  • eureka
  • team Lab
  • MISOCA
  • TeamSprint
  • nextremer
  • コロプラ
  • coconala
  • giftee
  • Game With

AIスカウトに寄せられた「個人情報の保護に関する法律」にまつわる合法か違法かの疑義

 

AIスカウトがNHKによって報じられた後、瞬く間に広がったのは、その適法性についてである。

つまり、そもそもこのサービスは合法なのか違法なのかといった点だ。

 

AIによる人材紹介と個人情報

SNSなどネットで個人情報を収集する”AIスカウト”人材紹介会社について考える

 

違法か? 合法か? これ対して指摘された内容について幾らか取り上げれば、主に以下の点があげられる。

 

また、この他「情報収集先(情報ソース)として利用されているサービス(qiita)の利用規約違反にあたるのではないか」「オプトアウト方法の不在は問題でないか」などの指摘も行われていた。


出典:Hiromitu Takagi on Twitter
※後日規約変更が行われており対処されているものもある

 

尚、これら全てへの回答があったわけではないが、個人情報の取扱については、株式会社scoutyのホームページ上にて公表されている。

 

それによれば、以下の人物によって確認が取れているとのこと。

ただし、この内容は3月25日時点のもの。

出典:HiromitsuTakagi on Twitter

5月5日時点では以下のように変更されている。

scoutyは、ひかり総合法律事務所 板倉陽一郎弁護士をはじめとする複数の弁護士に相談の上、法令を遵守した運営を行っております。

出典:株式会社scouty

 

なぜ経済産業省商務情報政策局情報経済課及び個人情報保護士の名称が消えたのかは分からないが、少なくともひかり総合法律事務所の弁護士によって合法性は担保されているということなのだろう。

 

この個人情報の保護に関する法律の取扱上、株式会社scoutyのサービスが合法なのか違法なのかは、私の方でも確認ができていない。

そのため、現実問題どうなのかは分かりかねる。

しかし、少なくとも弁護士による確認ができており、当局から何らかの指摘がなされているといった話題が出ていないのは確からしいといえる。

AIスカウトは職業安定法上合法なのか? 違法なのか? 厚労省職員の見解

 

さて、個人情報の保護に関する法律において、株式会社scoutyのAIスカウトに疑義が寄せられている点については、上記の通りだ。

一方、先ほど少し指摘があった旨を書いたが、AIスカウトに関しては職業安定法上も疑義があったことは見ての通りである。

私が真っ先に疑義を感じたのも、個人情報の保護に関する法律ではなくこちらの方だ。

 

先ほど指摘されていたのは5条の6。

公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、求職の申込みは全て受理しなければならない。ただし、その申込みの内容が法令に違反するときは、これを受理しないことができる。
○2 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、特殊な業務に対する求職者の適否を決定するため必要があると認めるときは、試問及び技能の検査を行うことができる。
(求職者の能力に適合する職業の紹介等)

出典:e-Gov「職業安定法」

 

私の方で気になったのは、5条の4である。

公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(次項において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
○2 公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。
(求人の申込み)

出典:e-Gov「職業安定法」

 

そもそも、求職登録の受付が行われないという時点で、苦情処理について等様々な条項に抵触するのではないかと感じたが、真っ先に感じたのはその仕様上職業紹介に不必要な情報まで収集してしまう点である。

 

そこで今回、厚生労働省職業安定局需給調整事業課に対して、株式会社scoutyのホームページを確認して頂きながら見解を伺った。電話に対応して頂いた職員の見解を簡単にまとめると、以下の通りである。

 

  • 当該サービスは、求職者から求職の申込を受けて職業を斡旋しているとはいえない
  • 当該サービスを提供している事業者が行っているのは、インターネット上において個人が自主的に公開している情報を収集し、人材を欲している企業に対してその情報を提供しているものと推察する
  • 当該サービスの概要を鑑みるに、そもそもこのサービスは人材紹介業にあたらないと思われる。よって、その限りにおいて職業安定法に抵触するとは断言できない

 

要するに、株式会社scouty側ではマッチングという言葉を使っているものの、現状のサービス内容を鑑みるに、あくまで株式会社scoutyが行っているのは情報提供に留まっているため、そもそも人材紹介業としてみなして職業安定法に当てはめられるとは思えないということ。

※ただし、この見解はサービス内容を細やかに精査した上での判断ではないため、あくまで表面上このような判断に至ったという点に留意して欲しい。

 

そのため、仮に合法か違法かが争われるのであれば、それは個人情報の保護に関する法律が焦点になるだろうとのことである。

少なくともその点に関しては、個人情報保護委員会などの見解によるとしている。

 

ここまで読んだ人には拍子抜けの結論かもしれない。

AIスカウトが、法的枠組みの中で今後どのような扱いになっていくか分からないが、少なくとも職業安定法上は今回得た回答のようになるとのことである。

私としては、このようなサービスを望む人間は少なくないと感じる。

就活にせよ、転職活動にせよ、あまりに非効率で不合理な手続きが罷り通る現状を思えば、非常に合理的であり、求人者・求職者双方の負担軽減にも繋がるサービスではないかと考える。

 

しかし、その一方で誰も彼もが転職を望んでいるわけではないのは確かだ。

また、本来の意図に沿わない個人情報の取扱がなされれば、決して良いと感じない人間も多いだろう。

何より、それを嫌って様々なサービスの利活用が萎縮する可能性すらある。

転職活動のためにSNSやブログ、技術情報共有サービスを利用している人間など、極々限られた一部の人間だけなのである。

求人・求職とは何ら関係を持ちたくない不特定多数の人間にとって、何ら不利益が生じない形となるよう、今後改善が行われることを願ってやまない。

※追記

所謂HRテクノロジーと法律の関係については、労働・社保官庁手続&人事・労務専門誌である「ビジネスガイド」が2018年6月号において特集している。

その特集において、本件に近い内容に関して指摘がなされているため紹介したい。なお、同誌においても、本件のようなサービスは情報提供を行っているに過ぎないという前提を置いている。その上で、以下の記述がなされている。

個人が公表している情報をスクレイピングにより収集し、閲覧に供するというものがあります。このような情報提供についてもHRテクノロジーの利用が考えられますが、求職者等の個人情報については告示によって「個人情報を収集する際には、本人から直接収集し、又は本人の同意の下で本人以外の者から収集する等適法かつ公正な手段によらなければならない」とされているのは前述の通りでありまして(職業安定法5条の4第2項参照)、サービスが先に情報をスクレイピングしたうえで、本人がこれに参加し、求職の意思を示すなど、「求職者等の個人情報」に至っているものについては、本人の同意を取るなどのシステムを備えている必要が生じます。

出典:月刊 ビジネスガイド 労働・社会保険、税務の官庁手続&人事労務の法律実務誌-6月号

つまり、個人情報収集にあたっては、本人の同意が取れるシステムが具備されている必要性が、一定条件下において必要とのことである。

今回紹介したscoutyの内容が、それに適しているかどうかは判断つかないが、同様のサービスが今後も登場し続けることは想像に難くない。

そのようなサービスが登場した際に、今回のような考え方があるということを、知っておいて頂ければ幸いである。




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