裁量労働制は「定額働かせ放題」なのか? 労働基準監督署の見解は

裁量労働制は「定額働かせ放題」なのか? 労働基準監督署の見解はどうなのか

「定額働かせ放題」

果たしてそのようなことが現実に存在するのだろうか? そう疑問に感じた経験がある人は少なくないだろう。まして、その言葉が向けられるのは法制度についてである。

憲法において奴隷的拘束や意に反した苦役に服されないことが禁じられている我が国において、果たしてそのような法制度が実在し得るのだろうか。

「定額働かせ放題」として、多くの人々から指摘されている高度プロフェッショナル制度(案)や裁量労働制。

今回は、その内裁量労働制について、「定額働かせ放題」などという事実が存在し得るのか、労働法制について監督を行っている労働基準監督署に確認した。

労働法制について余り知る機会のなかった人、裁量労働制に疑義のある人、「定額働かせ放題」が実在するのか疑問を感じている人など、良ければぜひ一度確認しておいて欲しい。

目次





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裁量労働制とはどのような制度か

そもそも裁量労働制とはどのような制度なのだろうか。この点について分からない人もいるかもしれない。そこで、まずは簡単な説明にはなるが、裁量労働制について軽く説明しておきたい。

一般的にみなし労働時間制や裁量労働制という言葉で表現されるが、厳密にいえば裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の二種類が存在する。

この二つは、対象者や運用においても若干の違いがあるので、混同しない方が良いだろう。ニュースや新聞など各種メディアにおいて、労働問題として何かしらの問題が発生した場合は、この二種類を分けて書いていないことも珍しくない。

場合によっては、どちらの制度が適用されているかによって全く捉え方が変わってしまうこともないわけではない。そのため、これらについて分けて知っておくに越したことはないだろう。

専門業務型裁量労働制とは何か

法で定められた特定の業務について、業務を完了させるための手段(やり方)や時間配分などを労働者側の裁量に多く委ねる制度である。対象業務や詳しい内容については以下を参照して頂きたい。

専門業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

対象業務としては19業務が指定されている。当然ながら、ここに記されている業務以外の業務について適用することはできない。もし記載されていないような業務で、この裁量労働制が適用されているとすれば、それは違法である。

この制度を導入するにあたっては、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要がある。また、そのために使用者と過半数労働組合あるいは過半数代表者の間で労使協定を結ばなければならない。日頃、新聞など各種メディアにおいて、裁量労働制の運用があたかも使用者(経営者など)にとって都合良くできる制度であるかのように語られるが、実際には厳密な運用が求められる。

 (1)  制度の対象とする業務
(2)  対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
(3)  労働時間としてみなす時間
(4)  対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
(5)  対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
(6)  協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
(7)  (4)及び(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

出典:専門業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

具体的にいえば、上記のような内容を事細かに定め、その範囲内でしか裁量労働制は適用できない。加えて、健康・福祉確保措置や苦情処理措置も講じなくてはならない。

健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするためには、対象労働者の勤務状況を把握することが必要です。使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法としては、対象労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等を明らかにし得る出退勤時刻又は入退室時刻の記録等によるものであることが望ましいことに留意することが必要です。

出典:専門業務型裁量労働制(健康・福祉確保措置)-厚生労働省労働基準局監督課

誤解されがちだが、裁量労働制を適用したからといって、使用者は労働者が働いている時間を全く管理・把握しなくて良いというわけではない。また、休日や休憩時間の確保、健康状態の把握や配慮なども必要になる。

企画業務型裁量労働制とは何か

本社など特定の事業場において、企画・立案・調査・分析といった限られた業務について、それを行うに適切な能力を持った人物を対象としてみなし労働時間制を適用する制度。企業の事業活動の中枢を担うホワイトカラーが対象となる裁量労働制である。一方で、ホワイトカラー全般が対象とならないよう、専門業務型裁量労働制よりも厳格な運用が必要となる。

※参考:企画業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

たとえば専門業務型裁量労働制は、過半数労働組合あるいは過半数代表者との間で労使協定を結ぶことで適用できる。一方、企画業務型裁量労働制を適用するにあたっては、使用者を代表する委員と労働者を代表する委員とによって作られる労使委員会(但し、構成員の半数以上は労働者を代表する委員である必要性がある)において、各必要事項に対して5分の4以上の決議を得た届出の提示が必要となる。

その上、対象となる労働者個人の同意も必要であるのに加え、裁量労働制の実施にあたっては、6ヶ月ごとに運用状況について報告する義務が発生する。つまり、裁量労働制を実施するための手続きが専門業務型裁量労働制以上に厳格であり、運用にあたっても厳格な管理が必要となるのだ。

健康・福祉確保措置などについても厳格な運用が求められる。そのため、企画業務型裁量労働制を実施するにあたっては、あらかじめ労働時間の把握についてや健康状態の把握・管理・措置などについても適切な内容を定めておく必要がある。

※参考: 労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針〔平成11年12月27日労働省告示第149号〕

※参考:「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署

※参考:裁量労働制とは何ですか。-独立行政法人労働政策研究・研修機構

裁量労働制の問題点「時間外割増賃金(残業代)が支給されない」は真実なのか

裁量労働制の問題点として、近年とくに高らかに言われているのは「定額働かせ放題」というものだろう。つまり、労働時間がみなしになってしまうため、いくら働いたとしても給料が一定額になってしまうという点だ。

見ようによっては、そもそも会社員のほとんどは「定額働かせ放題」と言えなくもない。何せ、いくら働いたところで月給制なら月給として定められた金額しかもらえないのである。しかし、本件についてはそういう話ではない。

裁量労働制における「定額働かせ放題」というのは、事実上何時間働いたところで、時間外割増賃金などの金がもらえないという話だ。決して会社員を皮肉ったブラックジョークではない。

通常、使用者は労働者を1日8時間・週40時間を超えて働かせてはいけない(労働基準法32条1項)。これに対して、労使間でいわゆる36協定を締結することで、週15時間・1ヶ月45時間などを上限として(一部業務は除く)、時間外労働を行えるようにできている(労働基準法36条時間外労働の限度に関する基準)。加えて、36協定に特別条項を設けることで、1ヶ月45時間を超えた時間外労働を一定条件の下で行わせることが可能になる。

この延長した時間に対しては、割増賃金の支払いが必要となり、通常の労働時間あるいは労働日の賃金の計算額について25%~50%分を割増した賃金を支払わなければならない(ただし、60時間を超える時間については50%以上の割増賃金を支払う必要がある。※労働基準法37条

ところが、裁量労働制を適用された労働者は、予め決められた時間を働いたことになるため、いくら働いてもその時間を時間外労働として認められないという問題が指摘されているわけである。そして、その言に従うのであれば、使用者は一定の金額さえ支払えば、何時間でも労働者を働かせることができるという話だ。

これが事実であるならば、確かに裁量労働制は問題の多い制度であり、ともすれば憲法18条「奴隷的拘束及び苦役からの自由」に悖る内容といっても過言ではない悪法制度といえるかもしれない。果たしてそれは事実なのだろうか?

裁量労働制には時間外割増賃金もあれば深夜割増・休日割増も存在する

裁量労働制が「定額働かせ放題」を強いる制度なのかどうかは後述するとして、まず事実として知っておいて欲しいのは、裁量労働制には時間外割増賃金や深夜割増賃金、休日割増賃金も発生するという事実である(専門業務型裁量労働制の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署企画業務型裁量労働制の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署)。

そもそも適用される法律が異なる深夜割増・休日割増の発生は広く知られているところだろう。もし裁量労働制が適用された働き方をして、深夜割増や休日割増を貰えていないとすれば、それは直ちに違法である。『労働時間がみなされるのに深夜割増や休日割増などどのように判断するのか』と感じるかもしれない。

これについては、裁量労働制を実施するにあたり、労使協定において『深夜や休日に労働する場合は、事前に所属長に許可を取ること』などのように規定し、実際に当該時間帯において働いた時間に応じた割増賃金の支払いが行われることとなる。少なくとも、割増賃金の支払いが発生しないということはありえない。

一方、時間外労働に対する割増賃金の支払いはどうだろうか。これも先に言ったように発生しないということはありえない。昨今、裁量労働制について『残業代が発生しない』と吹聴する有識者などがメディアを賑わすことがあるが、それについては明白な虚偽である。フェイクニュースといっても過言ではない。

いっそ、そのような誤った風説を流布する有識者の存在が、裁量労働制について誤った認識を与えているとすらいえる。もし裁量労働制において『時間外労働に対する割増賃金』が発生しないと思っているのであれば、その認識は改めた方が良いだろう。決して騙されてはいけない。

ただし、この時間外労働に対する認識だが、裁量労働制においては通常の考え方とは若干違いが生じる。どのような違いが生じるかといえば、通常の労働であれば8時間を超えて働いた時間については1分であっても割増賃金の支払い義務が生じるが、裁量労働制においてはそうではないという点である。

それならば時間外割増賃金の支払いは発生しないのではないかと混乱するかもしれない。やはり裁量労働制では残業代が出ないのではないかと思うかもしれない。だが、そうではない。裁量労働制における時間外割増賃金は、あらかじめ定められるみなし労働時間において、8時間を超える時間に対して支払いが生じるのである。

つまり、裁量労働制を実施するにあたり、『みなし労働時間は9時間とする』といった場合について、1日あたり1時間分の割増賃金の支払いが生じるのである。非常に大雑把な図にはなるが、イメージとしは以下の画像のような状況をイメージして欲しい。

裁量労働制の時間外割増賃金(残業代)算出イメージ

※あくまで大雑把なイメージです。個別具体的な内容については、労働基準監督署などにお問い合わせ下さい

このように、予め定められた時間数に限定されるものの、時間外割増賃金は裁量労働制においても発生する。全く発生しないということはありえないのである。そうはいっても、事前に定められた金額しか支払われないのであれば、「定額働かせ放題」というのは事実だと思うかもしれない。その点についてはどうなのだろうか?

裁量労働制の問題点「定額働かせ放題」は真実なのか

裁量労働制において時間外割増賃金(残業代)が支払われないというのが誤りだというのは分かっただろう。しかし、それでも「定額働かせ放題」への疑念は晴れないかもしれない。実際問題、先ほど伝えたように予め定められた時間分の賃金しか支払われないのならば、「定額働かせ放題」と考えられてもおかしくはない。

今回、この点に対して労働基準監督署の監督官に質問を行っている。そこで得た回答を踏まえて、先に結論を述べるならば『定額働かせ放題は起こり得るが、その時点でそれは裁量労働制の範疇から外れる』というものである。

労働基準監督署の監督官によれば、そもそも裁量労働制を導入するにあたり、専門業務型裁量労働制にしても企画業務型裁量労働制にしても、労使間での合意が必要である以上、みなし労働時間として定められた時間で終わらないような業務や業務量が課せられる状態は、明らかにおかしいとのことである。

裁量労働制とは、前述したように業務の遂行方法や時間配分などを労働者側に委ねる制度。明らかにみなし労働時間内で終わらないような業務量が恒常的に発生する状況は、時間配分に裁量があるとは認められず、よってそのような状態は裁量労働制として認められないという話である。

もちろん何らかのトラブルによって、事前に予測し得なかった状況になり、そういった状態になることは想像される。その場合は、労使間で改めて裁量労働制の要件を議論し直す必要があるとのことである。そして、このときそれが認められないような場合は、直ちに労働基準監督署などに相談すべきだという見解であった。

つまり「定額働かせ放題」のような、労働者に支払う賃金を抑制するためだけに裁量労働制が実施されているに等しい状況は、そもそも裁量労働制として認められないというわけである。

またそれとは別に、裁量労働制として認められない内容としては、様々な争点があるものの「エーディーディー事件」で指摘されたような、裁量労働制であるにもかかわらず、具体的な指示を受け、ノルマを課せられるような場合も、裁量労働制とは認められないという見解を得ている。

裁量労働制は、あくまで労働者個人の裁量によってのみ業務を行えることがほぼ完全に担保されなければ、その労働時間についてみなし労働時間とは認められないというわけだ。たとえば、派遣労働であったとしても、それは同様と話されている。つまり、派遣先で事細かにノルマや納期を指示され、業務の遂行方法なども拘束されるのであれば、裁量労働制ではないとのことである(派遣労働の場合は、派遣元・派遣先のいずれからも具体的な拘束的指示を受けない形が求められる)。

このように、本来裁量労働制は「定額働かせ放題」となるような、使用者にとって都合の良い制度として機能できない制度となっている。職種の縛り、命令の縛り、健康・福祉確保措置の縛り、何かあれば見直しを求められる縛りなど何重にも制約がついている。

仮にそれらの制約から外れたような都合の良い運用がなされているのであれば、それはすなわち違法状態となっている可能性が高いと労働基準監督署の監督官は告げていた。

そのため、もしも明らかに異常な状態(たとえば毎日のようにみなし労働時間数よりも多くの労働時間が発生している、ノルマの提示や業務遂行についての指示が繰り返されるなど)が発生しているのであれば、労使間で再度協定の見直しを求める必要があるとしている。そして、それが認められないようであれば、直ちに労働基準監督署へ相談して欲しいとのことである。

昨今、新聞などの各種メディアによる報道において、裁量労働制に纏わる話は、あたかも裁量労働制が問題にまみれた制度であるかのように伝えるものが多い。しかしながら、それは制度の問題というよりは、問題ある運用を行っている使用者並びに企業の問題であることが多い。

確かに裁量労働制にも見直すべき点は少なくないかもしれない。しかし、問題の多くはそれを使う側の問題であるという視点は持つべきであるし、制度について議論する場合は、まず制度についての客観的な事実を踏まえる必要があるだろう。

感情的に騒ぐのは個人の自由だが、誤った情報を元に問題を肥大化させるのは、それこそが多くの問題を孕んでいる行為ではなかろうか。裁量労働制に纏わるヒステリックなまでの批判については、とくにそれが顕著であるように感じられてならない。

尚、最後に補足しておくが、私個人は裁量労働制について全面的に賛成しているわけではない。見直すべき点はまだまだあり、たとえば対象業務を拡大するといった話は、現状では論外だと考える立場である。






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「求人を探して、履歴書を作成し、面接を受けるのが面倒臭い」

 

就職活動や転職活動を経験したことのある人ならば恐らく誰もが一度は思ったことがある不満だろう。

 

「会社の方からアプローチしてもらい、そこから働きたい場所を選べるなら良いのに」

 

このような怠惰な発想をしたことのある人も少なくないはずだ。

そういった中、2018年初頭にNHKが報じたことで話題になったのが「AIスカウト」である。

 

しかし、このとき話題になったAIスカウトの内容に対して、違法性があるのではないかと話題になったことも記憶に新しい。

私もその一人である。

 

ただし、私が違法性を覚えたのは、多くの人々によって疑義が指摘された点とは異なる。

広く疑義が寄せられたのは、個人情報の取扱についてだった。

私が疑義を抱いたのは職業安定法上の取扱である。

 

今回は、一時期話題になった「AIスカウト」について、職業安定法上問題はないのか、厚生労働省職業安定局需給調整事業課に確認した内容を伝えたいと思う。

目次





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合法か違法か物議を醸したAIスカウトとは何か?

 

一時期話題になった「AIスカウト」について、その後話題になることがなかったこともあり、そもそも一体どういうものなのか分からないという人も多いかもしれない。

 

話題になったのは、株式会社scoutyが提供するサービスで、「日本初のAIヘッドハンティングサービス」と謳われるものである。

 

学習能力に優れた人工知能が、インターネット上のオープンデータから情報を取得して、
エンジニアの能力を自動分析し、最適な企業とマッチング。

出典:株式会社scouty

 

つまり、求職者は求人サイトに登録することなしに企業側からオファーを受けられるというサービスである。

概要としては、株式会社scoutyが運用するAIが、インターネット上にある情報(個人のブログやSNS、技術者情報共有サービスなど)を収集し、求職者のデータベースを作成。

その求職者の情報(匿名情報としている)を元に、企業側はオファーを送りたい人物を選び、株式会社scoutyのサポートを受けながら作成したオファーを送付。

求職者側と直接やり取りを行うというサービスだ。

 

2018年5月5日時点で、以下の上場企業を含む、ベンチャー企業などが利用しているとのこと。

  • 楽天
  • DeNA
  • Cyber Agent
  • freee
  • News Picks
  • Gunosy
  • Retty
  • eureka
  • team Lab
  • MISOCA
  • TeamSprint
  • nextremer
  • コロプラ
  • coconala
  • giftee
  • Game With

AIスカウトに寄せられた「個人情報の保護に関する法律」にまつわる合法か違法かの疑義

 

AIスカウトがNHKによって報じられた後、瞬く間に広がったのは、その適法性についてである。

つまり、そもそもこのサービスは合法なのか違法なのかといった点だ。

 

AIによる人材紹介と個人情報

SNSなどネットで個人情報を収集する”AIスカウト”人材紹介会社について考える

 

違法か? 合法か? これ対して指摘された内容について幾らか取り上げれば、主に以下の点があげられる。

 

また、この他「情報収集先(情報ソース)として利用されているサービス(qiita)の利用規約違反にあたるのではないか」「オプトアウト方法の不在は問題でないか」などの指摘も行われていた。


出典:Hiromitu Takagi on Twitter
※後日規約変更が行われており対処されているものもある

 

尚、これら全てへの回答があったわけではないが、個人情報の取扱については、株式会社scoutyのホームページ上にて公表されている。

 

それによれば、以下の人物によって確認が取れているとのこと。

ただし、この内容は3月25日時点のもの。

出典:HiromitsuTakagi on Twitter

5月5日時点では以下のように変更されている。

scoutyは、ひかり総合法律事務所 板倉陽一郎弁護士をはじめとする複数の弁護士に相談の上、法令を遵守した運営を行っております。

出典:株式会社scouty

 

なぜ経済産業省商務情報政策局情報経済課及び個人情報保護士の名称が消えたのかは分からないが、少なくともひかり総合法律事務所の弁護士によって合法性は担保されているということなのだろう。

 

この個人情報の保護に関する法律の取扱上、株式会社scoutyのサービスが合法なのか違法なのかは、私の方でも確認ができていない。

そのため、現実問題どうなのかは分かりかねる。

しかし、少なくとも弁護士による確認ができており、当局から何らかの指摘がなされているといった話題が出ていないのは確からしいといえる。

AIスカウトは職業安定法上合法なのか? 違法なのか? 厚労省職員の見解

 

さて、個人情報の保護に関する法律において、株式会社scoutyのAIスカウトに疑義が寄せられている点については、上記の通りだ。

一方、先ほど少し指摘があった旨を書いたが、AIスカウトに関しては職業安定法上も疑義があったことは見ての通りである。

私が真っ先に疑義を感じたのも、個人情報の保護に関する法律ではなくこちらの方だ。

 

先ほど指摘されていたのは5条の6。

公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、求職の申込みは全て受理しなければならない。ただし、その申込みの内容が法令に違反するときは、これを受理しないことができる。
○2 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、特殊な業務に対する求職者の適否を決定するため必要があると認めるときは、試問及び技能の検査を行うことができる。
(求職者の能力に適合する職業の紹介等)

出典:e-Gov「職業安定法」

 

私の方で気になったのは、5条の4である。

公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(次項において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
○2 公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。
(求人の申込み)

出典:e-Gov「職業安定法」

 

そもそも、求職登録の受付が行われないという時点で、苦情処理について等様々な条項に抵触するのではないかと感じたが、真っ先に感じたのはその仕様上職業紹介に不必要な情報まで収集してしまう点である。

 

そこで今回、厚生労働省職業安定局需給調整事業課に対して、株式会社scoutyのホームページを確認して頂きながら見解を伺った。電話に対応して頂いた職員の見解を簡単にまとめると、以下の通りである。

 

  • 当該サービスは、求職者から求職の申込を受けて職業を斡旋しているとはいえない
  • 当該サービスを提供している事業者が行っているのは、インターネット上において個人が自主的に公開している情報を収集し、人材を欲している企業に対してその情報を提供しているものと推察する
  • 当該サービスの概要を鑑みるに、そもそもこのサービスは人材紹介業にあたらないと思われる。よって、その限りにおいて職業安定法に抵触するとは断言できない

 

要するに、株式会社scouty側ではマッチングという言葉を使っているものの、現状のサービス内容を鑑みるに、あくまで株式会社scoutyが行っているのは情報提供に留まっているため、そもそも人材紹介業としてみなして職業安定法に当てはめられるとは思えないということ。

※ただし、この見解はサービス内容を細やかに精査した上での判断ではないため、あくまで表面上このような判断に至ったという点に留意して欲しい。

 

そのため、仮に合法か違法かが争われるのであれば、それは個人情報の保護に関する法律が焦点になるだろうとのことである。

少なくともその点に関しては、個人情報保護委員会などの見解によるとしている。

 

ここまで読んだ人には拍子抜けの結論かもしれない。

AIスカウトが、法的枠組みの中で今後どのような扱いになっていくか分からないが、少なくとも職業安定法上は今回得た回答のようになるとのことである。

私としては、このようなサービスを望む人間は少なくないと感じる。

就活にせよ、転職活動にせよ、あまりに非効率で不合理な手続きが罷り通る現状を思えば、非常に合理的であり、求人者・求職者双方の負担軽減にも繋がるサービスではないかと考える。

 

しかし、その一方で誰も彼もが転職を望んでいるわけではないのは確かだ。

また、本来の意図に沿わない個人情報の取扱がなされれば、決して良いと感じない人間も多いだろう。

何より、それを嫌って様々なサービスの利活用が萎縮する可能性すらある。

転職活動のためにSNSやブログ、技術情報共有サービスを利用している人間など、極々限られた一部の人間だけなのである。

求人・求職とは何ら関係を持ちたくない不特定多数の人間にとって、何ら不利益が生じない形となるよう、今後改善が行われることを願ってやまない。

※追記

所謂HRテクノロジーと法律の関係については、労働・社保官庁手続&人事・労務専門誌である「ビジネスガイド」が2018年6月号において特集している。

その特集において、本件に近い内容に関して指摘がなされているため紹介したい。なお、同誌においても、本件のようなサービスは情報提供を行っているに過ぎないという前提を置いている。その上で、以下の記述がなされている。

個人が公表している情報をスクレイピングにより収集し、閲覧に供するというものがあります。このような情報提供についてもHRテクノロジーの利用が考えられますが、求職者等の個人情報については告示によって「個人情報を収集する際には、本人から直接収集し、又は本人の同意の下で本人以外の者から収集する等適法かつ公正な手段によらなければならない」とされているのは前述の通りでありまして(職業安定法5条の4第2項参照)、サービスが先に情報をスクレイピングしたうえで、本人がこれに参加し、求職の意思を示すなど、「求職者等の個人情報」に至っているものについては、本人の同意を取るなどのシステムを備えている必要が生じます。

出典:月刊 ビジネスガイド 労働・社会保険、税務の官庁手続&人事労務の法律実務誌-6月号

つまり、個人情報収集にあたっては、本人の同意が取れるシステムが具備されている必要性が、一定条件下において必要とのことである。

今回紹介したscoutyの内容が、それに適しているかどうかは判断つかないが、同様のサービスが今後も登場し続けることは想像に難くない。

そのようなサービスが登場した際に、今回のような考え方があるということを、知っておいて頂ければ幸いである。




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