障害者雇用水増し発覚後不足者数ランキングと障害者雇用に関する制度の話(行政機関関係)

障害者雇用水増しランキングと障害者雇用に関する制度の話(行政機関関係)

2018年8月、各府省庁において、障害者雇用の水増しが行われていたことが判明した。

その後この問題は地方公共団体へも波及し、数多くの団体・機関において同様の問題があることが明るみになっている。

言うに及ばず、これは違法行為であり許されざる行いである。

ところで、今回の事案は一体どのような違法行為だったのだろうか? 又、どの団体・機関においてより大規模な違法行為が行われたのだろうか? この機会に改めて確認しようと考える。

目次





障害者雇用義務はどのような法律・制度で定められているか? 障害者雇用率とは何か


民間企業を含め、一定規模の事業体には一定数の障害者を雇用する義務が課されている。それに伴い、民間企業に限りその罰則として納付金と呼ばれる罰金が設定されている。

今回、府省庁や地方公共団体において違法行為が発覚したが、彼らはこの罰金を支払う必要はない。それどころか何らかの罰が与えられる気配すら見られないのが現実である。

この度の障害者雇用の水増しが行われた背景には、このような罰則無き法制度という背景が要因の一つになっていたのではないか? そういった声も囁かれるが、新たに罰則を設定しようという動きは未だ見られない。

果たしてその状況下で今後行政による障害者雇用が適切に行われるかは甚だ疑問という外ないが、立法府が動かない以上どうしようもないというのが現状である。

障害者雇用制度とはどのような制度か

さて、この障害者雇用についてだが、実際の所どのような法律で定められているのかを改めて紹介しておこう。

第一条 この法律は、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。
出典:障害者の雇用の促進等に関する法律-e-GOV

障害者の雇用について、その基本となる決まりを定めているのは「障害者の雇用の促進等に関する法律」、通称障害者雇用促進法である。

今回この法律について事細かに説明することはしないが、大まかに言えば、雇用分野における障害者差別の禁止や障害者への配慮、障害者を支援する機関等についての諸制度が整備された法律である。

では、今回問題となったのはこの法律のどういった内容についてか? それを見ていこう。

(対象障害者の雇用に関する事業主の責務)
第三十七条 全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない。

(雇用に関する国及び地方公共団体の義務)
第三十八条 国及び地方公共団体の任命権者(委任を受けて任命権を行う者を除く。以下同じ。)は、職員(当該機関(当該任命権者の委任を受けて任命権を行う者に係る機関を含む。以下同じ。)に常時勤務する職員であつて、警察官、自衛官その他の政令で定める職員以外のものに限る。以下同じ。)の採用について、当該機関に勤務する対象障害者である職員の数が、当該機関の職員の総数に、第四十三条第二項に規定する障害者雇用率を下回らない率であつて政令で定めるものを乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)未満である場合には、対象障害者である職員の数がその率を乗じて得た数以上となるようにするため、政令で定めるところにより、対象障害者の採用に関する計画を作成しなければならない。
出典:障害者の雇用の促進等に関する法律-e-GOV
※各条2項以降略

今回問題となっているのは、主にこの障害者雇用促進法第37条、第38条によって定められている、障害者の雇用義務についてである(厳密に言えば行政事案であるため後者)。

では、この雇用義務とは何か?

簡単に説明すれば、先述した様に「一定規模の事業体においては一定数の障害者を雇用しなければいけない」という決まりである。

実際にどの程度雇用しなければならないかは、雇用率という一定の算定式によって算出される割合が基準になっており、2018年4月1日から以下のように設定されている。

  • 民間企業:2.2%
  • 国・地方公共団体等:2.5%
  • 都道府県等の教育委員会:2.4%

このため、例えば民間企業では従業員数45.5人に1人、国・地方公共団体等では40人に1人程度を雇用しなければならない。

ただし、この雇用率の算定にあたっては、障害者の障害等級によって1人を2人分として計算するといった特例や特定の業種に対して除外率という緩和策も提供されており、この雇用例はあくまで目安程度のものである点に注意が必要だ。又、特例子会社制度など、雇用率を維持、遵守するために活用できる制度もある。

詳しくは以下の資料を参照する他、労働局等に問い合わせて欲しい。

※雇用率算定における、障害の程度によるカウント方法については、厚生労働省が、何故か平成30年のリーフレットにおいてその項目を省略しているため、平成22年のものをリンクとして掲載する(身体障害者・知的障害者分のみを参照)。

※発達障害者のカウントやどのような(程度)障害を抱えた人がどれだけのカウントになるかの詳細は労働局などに確認してください。

障害者雇用制度の納付金(罰金)・報奨金制度の内容とその収支


障害者雇用には罰金や報奨金が用意されている。

障害者の雇用に伴う事業主の経済的負担の調整を図るとともに、全体としての障害者の雇用水準を引き上げることを目的に、雇用率未達成企業(常用労働者100人超)から納付金を徴収し、雇用率達成企業に対して調整金、報奨金を支給するとともに、障害者の雇用の促進等を図るための各種の助成金を支給している。
出典:障害者雇用納付金制度の概要-厚生労働省

これは常時雇用する従業員数が100人以上の企業に対して課されているもので、先述したように府省庁や地方公共団体には課されていない。

障害者雇用制度における納付金・報奨金はどのようなものか

納付金は罰金の性格を持ったもので、従業員数が100-200人の企業に対して障害者雇用者数の不足人数1人分につき4万円(2020年まで)、201人以上の企業で障害者雇用者数の不足人数1人分につき5万円の納付が命じられる。

一方、障害者雇用に積極的な企業に対しては、報奨金が与えられる。例えば従業員数が100人以下の企業で、全従業員数の6%以上、或いは6人以上の雇用で超過する雇用者数1人分につき2万1千円が支給されるのだ。

又、雇用率を達成している企業についても、必要な雇用障害者数を超過した分の障害者1人分につき2万7千円が支給される。

この他、雇用せずとも例えば障害者や障害者就労支援施設等に対して仕事を発注した場合に支給される特例調整金又は特例報奨金もある。

これら企業に支給される調整金や報奨金の原資として、納付金が使われており、障害者雇用を促進させることを目的にしている一方で、法令違反を犯し納付金を納める企業が存在しないと制度が維持できない歪な構造問題への指摘もある。

府省庁等の障害者雇用水増し分について仮に納付金が求められた場合の金額は4億円超

尚、今回法令違反が各府省庁及び地方公共団体等で発覚したが、何度も言うようにこれらの団体には納付金を納める義務が設定されていない。調整金や報奨金についても同様である。

今回仮に納付金の納付が求められた場合、行政機関において3,396.5人の不足、地方公共団体等において4,667.5人の不足であるため、仮に1人不足につき5万円の納付が求められるとすれば、4億3千2百万円の納付金が徴収されたことになる。

2017年の資料が見つからないため、2016年度の障害者雇用に係る納付金・報奨金の収支報告を参考にすると、納付金の総額312億円であるため、72分の1(1.3%程度)に過ぎないといえば過ぎない。しかし、決して少ない金額でないことは明白である。

※参照:障害者雇用の現状等-厚生労働省

とはいえ、現状の障害者雇用の進捗具合は民間でも決して素晴らしいといえる程では無い。厚生労働省による2017年度の障害者雇用状況の集計によれば、障害者雇用者数・実雇用率共に過去最高ではあるものの、法定雇用率を達せしている企業は50%程度とのことである。つまり対象企業の内2分の1の企業は障害者雇用を必要程度行っておらず、違法状態ということである。

今年度からは法定雇用率が上昇したため、この数字が悪くなる可能性もないといえない。

だからといって各府省庁や地方公共団体等の行政が障害者雇用促進法を守らないことが許されるものではないが、決して民間が十分な程障害者雇用を実施できているわけではないというのは留意する必要がある。

一方で、そもそも障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度は、先述したように違反する企業が存在しなければ、維持するのが難しい制度でもある。

あくまで私見を述べれば、そもそも障害者雇用率制度そのものが欺瞞に満ちた、見直すべき制度だと言わざるを得ない。

障害者雇用者数不足数上位ランキング(府省庁・都道府県・その他都道府県機関・教育委員会・独立行政法人・大学)


さて、2018年10月22日に、厚生労働省によって地方公共団体等及び独立行政法人による障害者雇用の状況が改めて発表された。

2018年9月21日に発表された各府省庁における障害者雇用の状況報告と合わせて、これで水増しを受けた数字でない数字が発表されたことになる。

言ってしまえば、過去に行われたそれらの団体における障害者雇用者数は、丁稚挙げられた誤った情報でしかなかったわけだ。

今回報告された数字が本当に正しいのかは議論があるだろうが、それを元に、現状違法状態が酷い上位の組織について紹介しよう。

尚、府省庁以外の団体については、誤差(過不足)数について省略している。

※2018年10月22日発表時点のデータである

※参照:国の行政機関における平成 29 年6月1日現在の障害者の任免状況の 再点検結果について-厚生労働省

※参照:都道府県の機関、市町村の機関、都道府県等の教育委員会及び 独立行政法人等における平成 29 年6月1日現在の障害者の任免 状況等の再点検結果について

障害者雇用不足数上位:国の行政機関

名称 実雇用率(人) 不足数(人)
1 国税庁 0.67 946人
2 国土交通省 0.70 659.5人
3 法務省 0.80 493.5人
4 防衛省 1.01 255.0人
5 財務省 0.78 183.5人

尚、実雇用率が低い順で見ると、個人情報保護委員会・観光庁が0.00%で最も不足しており、消費者庁(0.12%)、内閣官房(0.31%)、公安調査庁(0.38)と続く。

不足者数で見ると上記5省庁が目立つが、上記5省庁よりも割合として雇用していない省庁は少なくない。

 

障害者不足誤差数上位:国の行政機関

名称 実雇用率(人) 不足数(人)
1 国税庁 0.67 946人
2 国土交通省 0.70 659.5人
3 法務省 0.80 493.5人
4 防衛省 1.01 255.0人
5 財務省 0.78 183.5人

驚くことに、障害者雇用率を達成している府省庁及び個人情報保護委員会を除き、それ以外の全ての府省庁が雇用率を達成水準に水増ししていたため、不足者数の誤差順位も全く同一になる。

つまり、国税庁は946人分について雇用していたことにしたといえる。雇用してもいない946人分を偽って報告していたのだから、悪質と言うよりない。これが会計ならば紛れもない粉飾決算だろう。

 

障害者雇用不足数上位:都道府県

名称 不足数(人) 実雇用障害者
増減数(人)
1 山形県 64人 -76人
2 愛媛県 54人 -54人
3 石川県 46人 -38人
4 島根県 32.5人 -37.5人
5 福島県 31人 -39人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位は、山形県(-76人)、愛媛県(-54人)、福島県(-39人)、石川県(-38人)、島根県(-37.5人)となる。

それぞれの都道府県の事情もあるだろうが、算定対象の誤りにしろ水増しにしろ、担当職員の管理能力に対する疑義は拭えない。

今後は障害者雇用以外の点についても、各種法令の理解不足・認識齟齬や恣意的な水増し・捏造等が存在していないか、あらゆる点で監視が強化されることになるだろう。

 

障害者雇用不足数上位:その他都道府県機関

名称 不足数(人) 実雇用障害者増減数(人)
1 沖縄県病院事業局 37人 -17人
2 大阪府警察本部 28.5人 -30人
3 兵庫県病院局 22.5人 +7.5人
4 愛媛県公営企業管理局 18人 -9人
5 神奈川県警察本部 17.5人 -20人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位は、大阪府警察本部(-30人)、神奈川県警察本部(-20人)、沖縄県病院事業局(-17人)、愛媛県公営企業管理局(-9人)、島根県病院局・静岡県警察本部(-8人)となる。

比較的警察本部と病院局が目立つ。兵庫県病院局は元々算定対象にしていた人数よりも障害者を多く雇用していたことが分かるが、それでも大分不足していたようである。

 

障害者雇用不足数上位:教育委員会

名称 不足増加数(人) 実雇用障害者
増減数(人)
1 愛知県 325人 -392.5人
2 兵庫県 185.5人 -114人
3 埼玉県 168人 -171人
4 広島県 122人 -99.5人
5 神奈川県 121.5人 -141.5人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位は、愛知県(-392.5人)、埼玉県(-171人)、神奈川県(-141人)、群馬県(-123.5人)、千葉県(-117.5人)となる。

実際に雇用していた障害者が算定していた雇用者数よりも少なかった順位について見れば、関東圏が上位になるようだ。ところで、愛知県教育委員会の不足者数は府省庁と比較しても上位に入る(4位の防衛省より上)数であり、規模を鑑みれば驚愕に値する。

愛知県労働局によれば、2017年6月1日時点で愛知県内で雇用されている障害者雇用者数は3万人程度とのことである。それを元に考えれば愛知県教育委員会は新たにその1%以上にあたる障害者を雇用する必要に迫られるというのが分かる。

愛知県労働局の報告を踏まえれば、2016年から2017年にかけて増加した障害者雇用者数は1,091.5人。その30%程度にあたる人数の障害者を新規に雇用しなければならない状況である。

参照:愛知県の障害者雇用状況(平成 29 年 6 月 1 日現在)-愛知労働局

 

障害者雇用不足数上位:独立行政法人(大学を除く)

名称 不足数(人) 実雇用障害者増減数(人)
1 国際協力機構 18人 +3人
2 科学技術振興機構 8人 +5人
3 水産研究・教育機構 7.5人 0人
4 国立国際医療研究センター 6人 0人
5 量子科学技術研究開発機構 3.5人 0人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位についてはそれ程差異が見られないため省略。

 

障害者雇用不足数上位:大学(※私立は含まれない)

名称 不足数(人) 実雇用障害者増減数(人)
1 大分大学 15人 0人
2 北海道大学 11人 0人
3 群馬大学 10人 -6人
4 広島大学 9人 +8人
5 東京工業大学 8人 -6.5人

尚、障害者実雇用者数の減少数の上位についてはそれ程差異が見られないため省略。


  

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裁量労働制は「定額働かせ放題」なのか? 労働基準監督署の見解は

裁量労働制は「定額働かせ放題」なのか? 労働基準監督署の見解はどうなのか

「定額働かせ放題」

果たしてそのようなことが現実に存在するのだろうか? そう疑問に感じた経験がある人は少なくないだろう。まして、その言葉が向けられるのは法制度についてである。

憲法において奴隷的拘束や意に反した苦役に服されないことが禁じられている我が国において、果たしてそのような法制度が実在し得るのだろうか。

「定額働かせ放題」として、多くの人々から指摘されている高度プロフェッショナル制度(案)や裁量労働制。

今回は、その内裁量労働制について、「定額働かせ放題」などという事実が存在し得るのか、労働法制について監督を行っている労働基準監督署に確認した。

労働法制について余り知る機会のなかった人、裁量労働制に疑義のある人、「定額働かせ放題」が実在するのか疑問を感じている人など、良ければぜひ一度確認しておいて欲しい。

目次





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裁量労働制とはどのような制度か

そもそも裁量労働制とはどのような制度なのだろうか。この点について分からない人もいるかもしれない。そこで、まずは簡単な説明にはなるが、裁量労働制について軽く説明しておきたい。

一般的にみなし労働時間制や裁量労働制という言葉で表現されるが、厳密にいえば裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の二種類が存在する。

この二つは、対象者や運用においても若干の違いがあるので、混同しない方が良いだろう。ニュースや新聞など各種メディアにおいて、労働問題として何かしらの問題が発生した場合は、この二種類を分けて書いていないことも珍しくない。

場合によっては、どちらの制度が適用されているかによって全く捉え方が変わってしまうこともないわけではない。そのため、これらについて分けて知っておくに越したことはないだろう。

専門業務型裁量労働制とは何か

法で定められた特定の業務について、業務を完了させるための手段(やり方)や時間配分などを労働者側の裁量に多く委ねる制度である。対象業務や詳しい内容については以下を参照して頂きたい。

専門業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

対象業務としては19業務が指定されている。当然ながら、ここに記されている業務以外の業務について適用することはできない。もし記載されていないような業務で、この裁量労働制が適用されているとすれば、それは違法である。

この制度を導入するにあたっては、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要がある。また、そのために使用者と過半数労働組合あるいは過半数代表者の間で労使協定を結ばなければならない。日頃、新聞など各種メディアにおいて、裁量労働制の運用があたかも使用者(経営者など)にとって都合良くできる制度であるかのように語られるが、実際には厳密な運用が求められる。

 (1)  制度の対象とする業務
(2)  対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
(3)  労働時間としてみなす時間
(4)  対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
(5)  対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
(6)  協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
(7)  (4)及び(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

出典:専門業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

具体的にいえば、上記のような内容を事細かに定め、その範囲内でしか裁量労働制は適用できない。加えて、健康・福祉確保措置や苦情処理措置も講じなくてはならない。

健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするためには、対象労働者の勤務状況を把握することが必要です。使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法としては、対象労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等を明らかにし得る出退勤時刻又は入退室時刻の記録等によるものであることが望ましいことに留意することが必要です。

出典:専門業務型裁量労働制(健康・福祉確保措置)-厚生労働省労働基準局監督課

誤解されがちだが、裁量労働制を適用したからといって、使用者は労働者が働いている時間を全く管理・把握しなくて良いというわけではない。また、休日や休憩時間の確保、健康状態の把握や配慮なども必要になる。

企画業務型裁量労働制とは何か

本社など特定の事業場において、企画・立案・調査・分析といった限られた業務について、それを行うに適切な能力を持った人物を対象としてみなし労働時間制を適用する制度。企業の事業活動の中枢を担うホワイトカラーが対象となる裁量労働制である。一方で、ホワイトカラー全般が対象とならないよう、専門業務型裁量労働制よりも厳格な運用が必要となる。

※参考:企画業務型裁量労働制-厚生労働省労働基準局監督課

たとえば専門業務型裁量労働制は、過半数労働組合あるいは過半数代表者との間で労使協定を結ぶことで適用できる。一方、企画業務型裁量労働制を適用するにあたっては、使用者を代表する委員と労働者を代表する委員とによって作られる労使委員会(但し、構成員の半数以上は労働者を代表する委員である必要性がある)において、各必要事項に対して5分の4以上の決議を得た届出の提示が必要となる。

その上、対象となる労働者個人の同意も必要であるのに加え、裁量労働制の実施にあたっては、6ヶ月ごとに運用状況について報告する義務が発生する。つまり、裁量労働制を実施するための手続きが専門業務型裁量労働制以上に厳格であり、運用にあたっても厳格な管理が必要となるのだ。

健康・福祉確保措置などについても厳格な運用が求められる。そのため、企画業務型裁量労働制を実施するにあたっては、あらかじめ労働時間の把握についてや健康状態の把握・管理・措置などについても適切な内容を定めておく必要がある。

※参考: 労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針〔平成11年12月27日労働省告示第149号〕

※参考:「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署

※参考:裁量労働制とは何ですか。-独立行政法人労働政策研究・研修機構

裁量労働制の問題点「時間外割増賃金(残業代)が支給されない」は真実なのか

裁量労働制の問題点として、近年とくに高らかに言われているのは「定額働かせ放題」というものだろう。つまり、労働時間がみなしになってしまうため、いくら働いたとしても給料が一定額になってしまうという点だ。

見ようによっては、そもそも会社員のほとんどは「定額働かせ放題」と言えなくもない。何せ、いくら働いたところで月給制なら月給として定められた金額しかもらえないのである。しかし、本件についてはそういう話ではない。

裁量労働制における「定額働かせ放題」というのは、事実上何時間働いたところで、時間外割増賃金などの金がもらえないという話だ。決して会社員を皮肉ったブラックジョークではない。

通常、使用者は労働者を1日8時間・週40時間を超えて働かせてはいけない(労働基準法32条1項)。これに対して、労使間でいわゆる36協定を締結することで、週15時間・1ヶ月45時間などを上限として(一部業務は除く)、時間外労働を行えるようにできている(労働基準法36条時間外労働の限度に関する基準)。加えて、36協定に特別条項を設けることで、1ヶ月45時間を超えた時間外労働を一定条件の下で行わせることが可能になる。

この延長した時間に対しては、割増賃金の支払いが必要となり、通常の労働時間あるいは労働日の賃金の計算額について25%~50%分を割増した賃金を支払わなければならない(ただし、60時間を超える時間については50%以上の割増賃金を支払う必要がある。※労働基準法37条

ところが、裁量労働制を適用された労働者は、予め決められた時間を働いたことになるため、いくら働いてもその時間を時間外労働として認められないという問題が指摘されているわけである。そして、その言に従うのであれば、使用者は一定の金額さえ支払えば、何時間でも労働者を働かせることができるという話だ。

これが事実であるならば、確かに裁量労働制は問題の多い制度であり、ともすれば憲法18条「奴隷的拘束及び苦役からの自由」に悖る内容といっても過言ではない悪法制度といえるかもしれない。果たしてそれは事実なのだろうか?

裁量労働制には時間外割増賃金もあれば深夜割増・休日割増も存在する

裁量労働制が「定額働かせ放題」を強いる制度なのかどうかは後述するとして、まず事実として知っておいて欲しいのは、裁量労働制には時間外割増賃金や深夜割増賃金、休日割増賃金も発生するという事実である(専門業務型裁量労働制の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署企画業務型裁量労働制の適正な導入のために-東京労働局・労働基準監督署)。

そもそも適用される法律が異なる深夜割増・休日割増の発生は広く知られているところだろう。もし裁量労働制が適用された働き方をして、深夜割増や休日割増を貰えていないとすれば、それは直ちに違法である。『労働時間がみなされるのに深夜割増や休日割増などどのように判断するのか』と感じるかもしれない。

これについては、裁量労働制を実施するにあたり、労使協定において『深夜や休日に労働する場合は、事前に所属長に許可を取ること』などのように規定し、実際に当該時間帯において働いた時間に応じた割増賃金の支払いが行われることとなる。少なくとも、割増賃金の支払いが発生しないということはありえない。

一方、時間外労働に対する割増賃金の支払いはどうだろうか。これも先に言ったように発生しないということはありえない。昨今、裁量労働制について『残業代が発生しない』と吹聴する有識者などがメディアを賑わすことがあるが、それについては明白な虚偽である。フェイクニュースといっても過言ではない。

いっそ、そのような誤った風説を流布する有識者の存在が、裁量労働制について誤った認識を与えているとすらいえる。もし裁量労働制において『時間外労働に対する割増賃金』が発生しないと思っているのであれば、その認識は改めた方が良いだろう。決して騙されてはいけない。

ただし、この時間外労働に対する認識だが、裁量労働制においては通常の考え方とは若干違いが生じる。どのような違いが生じるかといえば、通常の労働であれば8時間を超えて働いた時間については1分であっても割増賃金の支払い義務が生じるが、裁量労働制においてはそうではないという点である。

それならば時間外割増賃金の支払いは発生しないのではないかと混乱するかもしれない。やはり裁量労働制では残業代が出ないのではないかと思うかもしれない。だが、そうではない。裁量労働制における時間外割増賃金は、あらかじめ定められるみなし労働時間において、8時間を超える時間に対して支払いが生じるのである。

つまり、裁量労働制を実施するにあたり、『みなし労働時間は9時間とする』といった場合について、1日あたり1時間分の割増賃金の支払いが生じるのである。非常に大雑把な図にはなるが、イメージとしは以下の画像のような状況をイメージして欲しい。

裁量労働制の時間外割増賃金(残業代)算出イメージ

※あくまで大雑把なイメージです。個別具体的な内容については、労働基準監督署などにお問い合わせ下さい

このように、予め定められた時間数に限定されるものの、時間外割増賃金は裁量労働制においても発生する。全く発生しないということはありえないのである。そうはいっても、事前に定められた金額しか支払われないのであれば、「定額働かせ放題」というのは事実だと思うかもしれない。その点についてはどうなのだろうか?

裁量労働制の問題点「定額働かせ放題」は真実なのか

裁量労働制において時間外割増賃金(残業代)が支払われないというのが誤りだというのは分かっただろう。しかし、それでも「定額働かせ放題」への疑念は晴れないかもしれない。実際問題、先ほど伝えたように予め定められた時間分の賃金しか支払われないのならば、「定額働かせ放題」と考えられてもおかしくはない。

今回、この点に対して労働基準監督署の監督官に質問を行っている。そこで得た回答を踏まえて、先に結論を述べるならば『定額働かせ放題は起こり得るが、その時点でそれは裁量労働制の範疇から外れる』というものである。

労働基準監督署の監督官によれば、そもそも裁量労働制を導入するにあたり、専門業務型裁量労働制にしても企画業務型裁量労働制にしても、労使間での合意が必要である以上、みなし労働時間として定められた時間で終わらないような業務や業務量が課せられる状態は、明らかにおかしいとのことである。

裁量労働制とは、前述したように業務の遂行方法や時間配分などを労働者側に委ねる制度。明らかにみなし労働時間内で終わらないような業務量が恒常的に発生する状況は、時間配分に裁量があるとは認められず、よってそのような状態は裁量労働制として認められないという話である。

もちろん何らかのトラブルによって、事前に予測し得なかった状況になり、そういった状態になることは想像される。その場合は、労使間で改めて裁量労働制の要件を議論し直す必要があるとのことである。そして、このときそれが認められないような場合は、直ちに労働基準監督署などに相談すべきだという見解であった。

つまり「定額働かせ放題」のような、労働者に支払う賃金を抑制するためだけに裁量労働制が実施されているに等しい状況は、そもそも裁量労働制として認められないというわけである。

またそれとは別に、裁量労働制として認められない内容としては、様々な争点があるものの「エーディーディー事件」で指摘されたような、裁量労働制であるにもかかわらず、具体的な指示を受け、ノルマを課せられるような場合も、裁量労働制とは認められないという見解を得ている。

裁量労働制は、あくまで労働者個人の裁量によってのみ業務を行えることがほぼ完全に担保されなければ、その労働時間についてみなし労働時間とは認められないというわけだ。たとえば、派遣労働であったとしても、それは同様と話されている。つまり、派遣先で事細かにノルマや納期を指示され、業務の遂行方法なども拘束されるのであれば、裁量労働制ではないとのことである(派遣労働の場合は、派遣元・派遣先のいずれからも具体的な拘束的指示を受けない形が求められる)。

このように、本来裁量労働制は「定額働かせ放題」となるような、使用者にとって都合の良い制度として機能できない制度となっている。職種の縛り、命令の縛り、健康・福祉確保措置の縛り、何かあれば見直しを求められる縛りなど何重にも制約がついている。

仮にそれらの制約から外れたような都合の良い運用がなされているのであれば、それはすなわち違法状態となっている可能性が高いと労働基準監督署の監督官は告げていた。

そのため、もしも明らかに異常な状態(たとえば毎日のようにみなし労働時間数よりも多くの労働時間が発生している、ノルマの提示や業務遂行についての指示が繰り返されるなど)が発生しているのであれば、労使間で再度協定の見直しを求める必要があるとしている。そして、それが認められないようであれば、直ちに労働基準監督署へ相談して欲しいとのことである。

昨今、新聞などの各種メディアによる報道において、裁量労働制に纏わる話は、あたかも裁量労働制が問題にまみれた制度であるかのように伝えるものが多い。しかしながら、それは制度の問題というよりは、問題ある運用を行っている使用者並びに企業の問題であることが多い。

確かに裁量労働制にも見直すべき点は少なくないかもしれない。しかし、問題の多くはそれを使う側の問題であるという視点は持つべきであるし、制度について議論する場合は、まず制度についての客観的な事実を踏まえる必要があるだろう。

感情的に騒ぐのは個人の自由だが、誤った情報を元に問題を肥大化させるのは、それこそが多くの問題を孕んでいる行為ではなかろうか。裁量労働制に纏わるヒステリックなまでの批判については、とくにそれが顕著であるように感じられてならない。

尚、最後に補足しておくが、私個人は裁量労働制について全面的に賛成しているわけではない。見直すべき点はまだまだあり、たとえば対象業務を拡大するといった話は、現状では論外だと考える立場である。






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